「アヤ・ブレアの想い」(2.アヤとカイル)

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 アヤ・ブレア。
 日系ハーフで,美人の呼び声も高い金髪の女。
 長身で美形な女性に似つかわしく,その四肢はすらっと細く長い。
 くびれた腰つきは,より一層しなやかな体を引き立て,曲線美の豊かさを強調していた。
 顎のラインまでのショートな髪型は,見た目に活発な印象を与えてはいるが,切れ長の目と理知
的で端正な美貌によって,物静かな女性といった雰囲気を醸し出している。
 しかし,ひとたび身を翻して駆け出せば,儚さや弱々しさなど微塵も感じさせず,むしろ猫科の
ような若々しい躍動感を思わせるのは,今までに積み重ねてきた訓練や経験によるものだろうか。
 アヤ・ブレアの職業とは……表向き,FBI捜査官である。
 表向きというのは,実際はそれよりも,特殊で過酷な使命を与えられているという意味に他なら
ない。
 近年,急に出現を始めたNMC【ネオ・ミトコンドリア・クリーチャー】を倒すためのMIST
【ミトコンドリア調査・鎮圧班】。
 その中でも,NMCハンターと呼ばれる戦闘員……その一員に,アヤの名はつらねられていた。


 ミトコンドリアは,細胞核とは異なる独自の遺伝子を有していることから,太古の時代に,核に
寄生(パラサイト)した生物の名残とする説がある。
 もし,全身のミトコンドリアが覚醒し,己の意志を持って動き始めたらどうなるか。
 生命体内部の,ミトコンドリア同士が共鳴し合ったらどうなるか。
 莫大なATPエネルギーを自身の意思で生み出し,常識というものでは到底考えられない強大な
パワーを内在した,異形のクリーチャーへと変貌してしまうのである。
 そのほとんどは低い知能しか持たなかったが,その頑健さと何らかに突出した能力は極めて高く,
異常としか言いようのないものであった。
 また,外見上,たとえ同じ形状をしていたとしても能力が同一とは限らず,タイプが違えば桁違
いのパワーを発揮する。
 とても,普通の警官の及ぶところではなかった。
 実際,何の予備知識も持たぬまま突入を命じられたSWATが,訳も分からぬまま全滅させられ
たこともある。
 クリーチャーと対峙するには,それなりの知識と装備が必要なのであった。
 もちろん,そのようなクリーチャーが,自然発生的に出現し始めたわけではない。
 そこには,人為的な,極めて悪意のある力が,多分に見え隠れすることが多く……
 要するに,クリーチャーとは,違法な生体実験の過程で生み出された生物であり,その元の姿と
は,人間や何らかの動物なのだった。

 アヤ・ブレア捜査官が,そのような化け物と対等以上に渡り合ってくることができたのは,アヤ
自身の体に存在するミトコンドリアも覚醒し,自身を守るための特殊能力,パラサイトエナジーを
発現させることができたことによる。
 3年前までは,アヤはニューヨーク市の一警官であった。
 しかし,高い知能を持った強力なNMCによる「マンハッタン島事件」をきっかけに,ミトコン
ドリアが覚醒したアヤは,その能力と頭脳によって素手でもNMCに対抗しうる唯一の人間であり,
いわば人類の切り札なのだった。


 だから,今日のように,NMC鎮圧のため,単身,現地に向かうことなど別段珍しいことでもない
ことだった。
「他のメンバーは全員,複数箇所で出現した別のNMC鎮圧に出払ってしまって誰もいないんだ。
鎮圧掃討が終わり次第,そちらに向かわせる。すまんが,何とか頑張ってくれ」
「了解。でも,メンバーは来なくてもいいわ。私一人で大丈夫。決して,無理はしないでとみんな
に伝えておいて」
 他のメンバーは,自分とは違う。
 特別な能力はなく,ただ自己の体と戦闘技術と頭脳を鍛えただけの,普通の人間だ。
 だけの……とは語弊があるが,自分の体が人間側よりもクリーチャー側に近いことを知っている
アヤにとっては,他に言いようもないことだった。
 自分が楽になるために,必要以上に仲間に無理をさせ危険に曝したくない。
 他のメンバーを気遣うアヤは,冷徹な捜査官ではなく,一人の美しい女性だった。
 アヤの背中で,デートに誘い出そうとドアを開けて待っていたカイルは,今日もそのチャンスが
潰れたことを知った。
……誰よりも笑顔が似合う女性は,自分の身よりも他人の身を案じて危険も厭わない捜査官か……
全く,単独で行動をしたがるなんて,捜査官に向いているのか向いていないのか……まあ,そこの
ところが,俺が好きになった一番のところではあるんだが……
 激務の合間をぬった,せっかくのデートをキャンセルされたカイルは,やれやれと苦笑をした。


……アヤの笑顔は最高だ。あの笑顔を得るためなら何だってできる……
 アヤが微笑むと,どんなに美しい花もかすんで見える。
 カイルは,そう信じて疑わない。
 長い睫毛に彩られた,切れ長の優しげな瞳は,吸い込まれてしまいそうなほどに魅力的だった。
 しかし,そう考える男は,何もカイルだけに限ったことではない。
 アヤの笑顔を,自分だけのモノにしたいと思う者は,一人や二人ではなかった。
 思いあまって心情を吐露して言い寄り,困惑したようなアヤのもの憂げな表情を目にした男は,
ドギマギのあまりに決まって目を逸らした。
 実際,アヤはそれほどまでに美しかった。
 その端麗な容姿で,グラビアを飾っていても決して可笑しくはない。
 いや,むしろそうではなくFBI捜査官であることが,会う人会う人を一様に驚かせる。
 TVが,とびっきりの美人モデルを使って自分をからかっているのだと思い込み,身分証を見せ
るまで,信じてもらえないことなどは毎度のことだった。
 街を歩けば,様々なモデルにスカウトされる。
 アヤさえその気なら,そのすっきりとした爽やかな美貌と抜群の肢体で,一躍話題のモデルとし
て,世の中に躍り出るだろうことは間違いないことだった。
 まして,セクシーなドレスに身を包み,情感的な表情を浮かべようものならば,それはまさしく
「誘惑」に他ならない。
 そんな,共通な確信をスカウトたちに抱かせながら,アヤはにっこり笑って通り過ぎる。
 アヤ・ブレアは,NMCを根絶するMISTの第一人者なのだった。

 カイルは,その最高の笑顔を毎日見ることができるように,近いうちにプロポーズをするつもり
だった。
 しかし,そこまで二人の交際が進んでいるのかといえば,実はそうでもない。
 実際のところ,満足にデートをすることができたのは,ほんの数える程度だった。
 キスにしても,先日やっと実行できたに過ぎない。
「やれやれ……俺も奥手なつきあい方をしているもんだ」
 カイルは独り言を口にするが,その言葉は正確ではなかった。
 そうしようとして,奥手なつきあいになっているわけでは決してない。
 二人には,自由に過ごすだけの時間が,そんなにはないのだった。
 あの施設で救出した幼いイブを,アヤが自分のもとに保護していることで,なかなか二人きりに
なる機会がないことも一端ではある。
 しかし,そんなことは,カイルにとって全く不満なことではなかった。
……問題は……MISTの任務だよな……
 何だか,人類を敵に回してしまいそうな言葉だと思いつつ,カイルの最大の悩みとはいつもそこ
にあった。

 いつ発生するやも知れない,NMC事件による捜査や鎮圧任務。
 クリーチャーが出現したとして,それを倒せば終わりというものではなく,誰がどのような目的
で生み出したのか,それを捜査して研究資料から何から,文字通りすべてを根絶することまでが,
アヤたちMISTに与えられた使命なのだった。
 その度に,アヤは必ず駆り出され,十分な時間を二人ですごした記憶があまり無い。
……しかし,逢う時間が少ないのは,まだいいさ……
 MISTではないカイルは,危険な任務に出かけるアヤが心配でならない。
 カイルにとって,アヤとは命に代えても全力をかけて守りたい,大切な女性だった。
「俺もNMCと戦ってきた人間だ。何かあったときは,命に代えてでも必ずアヤを守ってみせる」
 ただ黙って待つしかないのが耐えられず,思わずそう口にしたことがある。
 そのとき,アヤは今にも泣き出しそうな顔で,こう言ったものだった。
「ありがとう。とっても嬉しいわ……でも…お願い,カイル……そんなこと言わないで……貴方が
いなくなってしまったら…たとえ,私を守ってくれた結果だとしても……私,ちっとも嬉しくない。
そうなったら私,きっと生きていられないもの……貴方は,私にとってそれくらい大切な人なの。
だから……分かって。任務には,私一人で行くわ。心配しないで。私には,パラサイトエナジーが
ある。それでも大変なときには,きっとあなたに助けを求めるから……だから……」
 ひしひしと伝わる,切ないまでのアヤの想い。
 アヤは誰よりも,カイルを大切に想っていた。
 NMCと対峙するときも,カイルを守るため,カイルの元に戻って抱き締めてもらうためと……
そのことだけを考えて戦ってきた。
 言葉にしなくても,一瞬にしてカイルは理解し,軽い後悔に包まれる。
……アヤも,同じなんだ……
 カイルに,返す言葉はなかった。

 自然,二人の心の結びつきは強まっていく。
 時間がなければ,それだけお互いを求める気持ちが強まっていく。
……いつ……そう……いつ,そうなっても可笑しくはないわ……
 アヤにも,それだけの心積もりはあった。
 カイルからのプロポーズが,そのきっかけになる……
 いつしか,そのことがお互いの暗黙の了解のようになっていた。

 だから,アヤには,それが今日のデートになるのだとわかっていた。
……私……今日……
 シャワーを浴び,自分の体を見つめる。
 カイルに,少しでも気に入られようと,綺麗な下着を身につける。
 胸をドキドキとさせるアヤは,一人の女性になっていた。
 チャイムが鳴り,イブが駆けていく。
 ドアが開き,涼しげな目をしたカイルが姿を現す。
「さぁ,出かけようか,お姫様たち」
 にっこり微笑んで,カイルの手を取ろうとしたとき,電話が鳴った。
 ドアを背に,カイルが苦笑していた。
 それが,今朝の出来事だった。


「君が,僕よりも誰よりも強いのは知っている。でも……その綺麗な顔には,決して傷を付けられ
ないように気をつけてくれよ?」
 出発するときの,笑顔で憎まれ口をたたいたカイルの顔が目に浮かぶ。
 言葉は悪いが,その奥に隠れた本音をアヤは正確に理解していた。
 パラサイトエナジーを有する超人と知っても,カイルはアヤを一人のか弱い女性としてしか見る
ことができず,危険な任務に身を投じていく自分のことが心配で心配でならないのだ。
……馬鹿ね……カイル……
 ハンドルを握りながら,アヤは,ふふっと笑う。
 いつも,そうなのだ。
 任務を告げるとき,カイルは決まって,一瞬表情を無くす。
 しかし,次の瞬間には何事もなかったかのように,穏やかな笑顔に戻る。
 引き留めたい気持ちをぐっと隠し,わざと憎まれ口で出発させてくれるカイル…
……ありがとう……カイル…大好きよ……
 アヤの胸に,愛しい気持ちがいっぱいに広がってくる。
「大丈夫よ。私はミトコンドリアパワーで,不老不死なんだから。きっと……カイルが年を取って
老衰で死んじゃっても,私はこのまま元気でピンピンしているわ」
 軽口には軽口で返し,アヤは任務に就いた。

 アヤの車が見えなくなるまで見送り,カイルは寂しさ混じりの苦笑を漏らす。
「不老不死か……それは,洒落になっていないな,アヤ……君は27歳だけれど,ミトコンドリア
の活性化で20歳前後のままなんだ。不老不死とまではいかなくても,それに近いくらいのことは
十分にあり得ることさ。今の若さのままで,アヤにこの任務を続けられたら…俺の心臓は,気苦労
で,老衰を迎える前にきっと止まってしまうな」
 カイルは,空を見上げた。

 空は青く,空気も透き通っている。
 電波状況は何も問題はない。
 カイルは,現地状況を把握するため,アヤが向かった現地のラジオ局に調整を始めた。
「俺の美人さんが,早く帰れるように……っと」
 心配性は心配性らしく,とことん心配して行動してやろうと心に決めたのだった。

    続く 風俗 デリヘル SMクラブ