「セフィリアの使命U」(4.公開演技)

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「これは……何て悪趣味な」
 公開演技用にと,用意された衣装を身に纏ったセフィリアは,鏡を前に溜息を漏らした。
 それは,およそ戦闘服とも思えない,様々な飾りが施された近衛服だった。
 白を基調とした近衛服。
 全体的に,シャープなラインであるのに,大きな襟と袖が目立つ。
 胸には赤のモールが飾られ,襟や袖などの端々は金で縁取られている。
 実用性よりも,不必要に見栄えのよさを追究したかのようなデザイン。
 しかし,その程度ならば,まだよかった。
「剣の公開演技で,スカートですか……しかも…」
 細く絞られたウエストから,下半身に向かって広がるスカート…
 後ろ姿では,ふくらはぎまで覆っている布地だが,前に向かうにしたがって急激に短くなり,正面から
見る姿では,色白の太腿を半分ほども露わにしていた。
 後ろから見れば長めのスカートでも,前から見ればミニスカートどころではない。
 観覧する者の目を,どこに惹こうとしているのか,あからさまであるとしか言いようがないデザイン
だった。
 セフィリアの耳に,市長の上機嫌なお喋りが残っている。
『セフィリア殿の魅力を,存分にアピールするデザインを考えさせたのですよ。肌の露出を多くし過ぎる
のは,逆に魅力も半減というもの。しかし,全くないのも無粋。凜と格好良く,それでいてセフィリア殿
の抜群のプロポーションや,女性美を印象づけるものとなりましょう』
 そして,側ににじり寄ってきた市長は,腰や胸を撫で回しながら言ったものだった。
『ふふふっ,戦うセフィリア殿の強さと格好良さを見れば見るほど,議員や市長たちは興奮に滾ること
間違いなしでしょうな。この体を,好きなように味わい,我がモノとしたいと。そのためにも,対戦相
手など歯牙にもかけず,華麗に勝利してください』
 期待していますぞと意味ありげな言葉を残し,部屋を出て行った市長の顔……
 不快だった。
 自分は,これから下劣な男たちの劣情を刺激するために見世物となる。
 そして,夜ごと,欲望の限りを尽くされることになる。
 強い女をベッドで屈服させたいという男の欲望など,到底理解できるものではないが,市長がそう言
うのならば,きっとそういう趣向というものもあるのだろう。
……私は……クロノスの駒の一つ……ただ,それだけに過ぎない………
 そう何度,思っていても…
 手段など選ばないと思っていても…
 自分から望んで,男たちの欲望を受け入れ穢されようとしていることに,鳥肌が立つような嫌悪感が
込み上げてくる。
 それでも…
……大したことではありません……この件を片付けるまでの間だけの……些末なことです……
 静かな瞳は,表情を変えることもなく,その先を見据えることに集中する。
 敵を欺く…
 そのためには,まずは自分自身をしっかりとコントロールしなければ……
……なかなか,ままならないものですが……できないはずはありません……
 苛烈な炎は胸の奥に隠し,セフィリアは会場へと向かった。


「今回の最後を飾りますのは,キルムベート市による剣士の公開演技です。剣士は,ソフィ=マーカス。
何と,うら若き美貌の女性剣士です! しかも,今回の演技でご覧いただくのは1対多となる対集団戦
とのこと。どれほどの技量をもつ剣士なのか,とくとご覧ください」
 アナウンスの紹介と共に,ステージに現れたセフィリアの姿に,観覧席からはホゥと溜息にも似た声
が漏れた。
 背後のスクリーンに大写しになった,セフィリアの柔らかな美貌。
 すっくと姿勢よく立つ姿は,細長く伸びた肢体の美しさを静かに訴え,細かい動きに合わせてたなび
く長い髪は,その周囲を桜の花びらが舞い落ちてゆくかのような錯覚を見る者に感じさせる。
「これは,これは……」
 長い睫毛が彩る涼やかな瞳に,会場内の羨望の視線はいっそうの熱を帯びていく。
 キルムベート市での内実を知る者にとっては,その市長に自由にされている事実など,意識していて
も忘れてしまうほどの可憐さだった。
「ようやく出してきおったか。市長め,自分だけで楽しむのかと歯ぎしりする思いだったが,もったい
ぶりおって。ふふふっ,セフィリアめ,待ちわびたぞ」
「今まで,手を出すなど考えられないことだったが……やはり,あの女は味わってみたいものじゃて。
おい,キルムベートとの取引に使いそうなものを,すべて洗い出しておけ。くくくっ,何としても派遣
させてやる」
 観覧席のそこここから,舌舐めずりするような声が漏れ聞こえる。
 セフィリアに対する淫らな思惑と,薬物の取引の旨味を前にして,クロノスに対し計算高く面従腹背
の立場をより色濃くしようとする市長や議員は,全体の中では多くはなくとも,数としては決して少な
くはない。
 少し離れた席に座る,ヴァルザーリ市長もその一人だった。
「ソフィとな? くくくっ,その名付けは,どうあっても『セフィリアのそっくりさん』ということを,
強調しておきたいようじゃな。あの市長らしい,狡猾なことよ。まあ,それでこそクロノスと波風立て
ることなく,あの小生意気な女を好きなように楽しめるというもの。あの女が,ワシと対面したときの
顔が見ものだて」
 大柄な体のヴァルザーリ市長は,凶悪そうな顔に好色な表情を露わにし,セフィリアの肢体に舐める
ような視線を這わせた。
 クロノスとの会議では,護衛として付き従っていたセフィリア。
 対して,こちらもただの一市長としての態度をとっていたに過ぎない。
 しかし,作戦の打合せで協力を要請されることもよくあり,各市長とクロノス,セフィリアとの間は,
決して知らぬ仲ではなかった。
 言わば,馴染みといってもよい協力関係にあったはず……
……あの女は,そう思っているだろうて。しかし,小娘のような女が,市長であるワシに対して部下の
ように指示をするなど,とても許せるモノではないわ……
 怒りを示すような言葉とは裏腹に,ヴァルザーリの表情にあるのは,愉悦の笑みだった。
 高嶺にあったセフィリアを,自由にして弄んでやるのだと考えるだけで,この上ない興奮が掻き立て
られる。
……逆らうわけがない,協力してくるのが当然と思っていた相手に裏切られ,体を弄ばれるなど…どれ
ほどの屈辱かの……ふふふっ……
 それでも,セフィリアをセフィリアとして扱わず,ソフィという名のそっくりさんということにして
おけば,決して体面上はクロノスに弓引くことにはならない。
……さて……あのセフィリアめは,必ずワシのモノにしてやるとして……
 周囲を見渡せば,黒い噂の絶えない市長や議員たちが,不敵な笑みを浮かべながらそれぞれの思惑で
セフィリアを見つめている。
……ふむ……ならば……
 ヴァルザーリは,ニヤリとした。
 キルムベートが主催し,セフィリアを出してきた以上,そこには薬物とそれに関わりのある物件の取引
が集まってくるのは間違いない。
 これは,うまく利用すればチャンスになりそうだ…
 ヴァルザーリは,奸計を巡らせた。
……いくらか…恩を売っておくのもよいかもしれんの。少し,取り込んでおくとするか……
 既に頭の中は,このパーティーの終了後へと飛んでいる。
……まずは,議員だな……誰にするか……
 まず議員たちは,派遣依頼を行う権利がない。
 議員たちは,自分の私兵や研究施設を持つことができないことから,武術訓練や研究員の公開演技を
観覧しても,その派遣依頼を行うこと自体に意味がないためである。
 ならば,とヴァルザーリは考える。
 セフィリアを自分の市へと派遣させたタイミングで,何かしらパーティーでも開き,役に立ちそうな
議員たちを2〜3日ほど招待してやろう。
 その間,セフィリアを専属の護衛役に付けさせていただくとでも言ってやれば,土産話を持って喜ん
でやって来るだろう。
……それから,弱小市長ども……何人か,見繕ってみるか……
 今回の公開演技の中で,セフィリアの派遣については,全日程で1カ月間と決められている。
 恐らく,キルムベート市長が,セフィリアを上手く罠にはめ込んで,何らかの約束を交わした期間と
いうものがあるのだろう。
 ということは,幾つもの市が,派遣を希望したからといってすべて通るわけではない。
 キルムベート市長にとって,よい取引を提示することができた上位市のみに限定されるに違いない。
……その限られた枠から,あぶれてしまいそうな弱小の市長どもに,議員と同様,甘い汁を吸わせてやっ
ておけば,後々,役に立つだろうて……ワシが秘かに温めていた薬物の取引も,これで金を呼び込んで
大きく広がりそうじゃな……
 ヴァルザーリは,紙に幾つかの名前をしたため,傍らに仕える側近を呼ぶ。
「コイツらに伝えておけ。ソフィ=マーカスは,ワシが呼び寄せる。派遣契約は,オプションで延長も
つけさせる予定だぞと。ワシの船に乗りたければ,協力しろとな」
 キルムベートには,望むものをその10倍も20倍もの量で渡してやろう。
 セフィリアという,本来ならばあり得ない極上の獲物を手に入れてくれた褒美とでも思えば,それで
も十分に価値には見合う。
「くくくっ,通常は3日が派遣日数だろうが……半月ほども来てもらうか」
 ヴァルザーリは,目を細める。
 呼びかけに応じてきた市長どもも含めて,今後の協力関係を作っていけば,薬物の裏市場での占有率
は跳ね上がる。
 そうなれば,材料ともども,市場価格を操作するのはたやすい。
 自分の言葉一つで,市場価格を決めることができるのだ……最高ではないか。
 キルムベートの市長も,馬鹿でなければ,そこに加わる旨味に気付くことだろう。
……あの女は,その宴の肴として存分に楽しんでやる。あの体を裸に引ん剥いて,涙を流すほどの快楽
に身悶えさせてやろう。たっぷり薬を与えてな……
 セフィリアを眺めるヴァルザーリ市長の,邪悪な想像は留まるところを知らない。

 セフィリアの公開演技のさなか……ヴァルザーリの奸計は,水面下で進められていく。
 かくして…
「………という話でも,考えているだろうな。ふふふっ,特に,ヴァルザーリあたりは」
 キルムベート市長が想定したシナリオは,寸分の狂いもなく,また一つ先へと進んだのだった。


……対戦相手は7人……これなら,それなりに見せ場もつくれそうです……
 ステージ上のセフィリアは,剣を下段に構えた。
 対戦相手の7人の男たちは,登場するやざざっと周りを囲むように広がっていく。
 一気呵成に,乱戦を仕掛けてはこない。
 配置についた男たちは,音を立てることもなく,静かに……急ぐことなく,少しずつ輪を縮めてくる。
……なるほど……
 暗殺者としての動きだった。
 一人一人の強さはそれほどではなくとも,統率された集団の動きによって,確実に強者を屠るねらい。
 少し強い程度の剣士ならば,その圧力に負けて下がる以外にはないのかもしれない。
 この手際は,間違いなく手練れのものだ。
……私が圧勝するようにと,完全に引き立て役となる者たちかと思いましたが…なかなか腕はあるよう
ですね……さて,どうしますか……
 セフィリアは,少し楽しさを感じていた。
 勝ちすぎてはいけない……そう理解はしていた。
 時の番人という肩書きがある以上,わざと手を抜いていると思わせるのは逆効果であるし,そうであ
れば,他を寄せ付けない強さを見せる方がいい。
 けれど,あくまでそれは常識的な範囲での話だ。
『5人や10人では敵う相手ではなくとも,所詮は女一人,その程度だ。何とかなるだろう』
 そう思わせる程度で,とどめておくのが理想的だった。
 この場に集っている者にはすべて,時の番人の力量の程度には見誤ってもらう必要がある。
………しかし……
 久しぶりに剣を握る,清涼な感覚。
 頭の中が鎮まる。
 胸の奥は,今までの立ちこめていた靄が晴れ,スーッと浄化されていくような気さえする。
 このステージが全力を出せる場でなくとも,たとえ邪念の渦巻く場であったとしても,剣を握るこの
感覚には理屈では言い表せない喜びがあった。
……茶番には違いありませんが……それなりに,楽しませてもらいましょうか……
 セフィリアは,相手を導くようにスッと前に出る。
「……!」
 無防備に,駆け引きもなく間合いに入ったセフィリア。
 周囲から圧力をかけながら隙を突くはずだった男たちは,瞬間的に体が動くのを止められなかった。
 絶好のチャンス……完全な,誘いだった。

 必殺を意図して,振り下ろされる剣の軌道は読みやすい。
 風切り音を耳元にしながら,セフィリアはふわりと肩を反らして剣をかわし,踏み込んできた男たち
の間隙をぬって,すっと前へと進む。
 剣の振り下ろしを利用し,虚を衝いた動き。
 ただそれだけで,セフィリアは既に男たちの背後にあった。
「……っ!?」
 囲みが解かれた…!
 そう理解するよりも早く,振り返った男の目の前には,下段から剣を振り上げる寸前のセフィリアの
姿がある。
「チャンスと思ったときこそ,冷静な判断が必要です。自分たちの連携を崩しては何にもなりません。
それから,囲んでの戦いは,相手に考える隙を与えないこと。スピードが大切です」
 耳元で聞こえた柔らかな声。
 振り上げられた剣の一閃……一瞬にして,2人の男が崩れ落ちた。

「!」
 侮っていたわけではない。
 次の連携と攻撃を,想定していなかったわけでもない。
 囲みは,破られてしまったとしても,次の攻撃に移れるはずだった。
 今……1人の敵に対して,自分たち5人の配置となっているのは,細長い縦深の形。
 軍隊の作戦で言う中央突破という波状攻撃を,残った5人で息をもつかせぬ速度で繰り出す……必殺
の陣となるだけのはずだった。
 しかし……それは,先手を取れば…という話だった。
「ですから,足を止めないこと,相手に考えさせないことが何より大切なのです」
 次の敵,そしてまた次の敵と,あっさりとその間合いに入るセフィリアは,至近距離で突き振り下ろ
される剣を,体に僅かに掠らせることもなく,さながら風の舞いを見せるかのような華麗さでかわし,
間近へと迫ってくる。
……くそ! く,来るなっ!……
 そよ風のような柔らかさであるにもかかわらず,その勢いをまったく止められない。
 縦深陣までとりながら,足を止めたまま動くこともできず,各個撃破も同然に打ち倒されていくのは
男たちの方だった。
 何本もの剣をかいくぐり,次々と空を切らせ…
 しなやかな体がくるりと回転する度,その旋風の中心からは,勢いの乗った剣先が閃くように美しい
軌跡を描いていく。
……なぜだ…なぜ倒せない……
 目前で,崩れ倒れる仲間の姿……その陰から姿を現したセフィリアの微笑に,冷たい汗が流れる。
 反射的に突きを繰り出す,自分の腕がひどく遅かった。
 自分だけが動けない,コンマ何秒の世界をコマ送りで見ているかのような感覚。
……図に乗った女に,思い知らせてやるはずだった……
 それこそが,思い上がりだったのか…
……動け! 動け!……
 もどかしいほどの時間の内に,セフィリアの剣が自分の体に届くのを認める刹那。
 衝撃と共に,男の意識は途切れていった。


「勝者,ソフィ=マーカス! 神速の剣技! 素晴らしい公開演技を披露した,美しき女剣士に拍手を
お送りください」
 観覧席から降り注がれる万雷の拍手を受け,セフィリアは優雅な礼で応える。
 誰もが,これはあくまで演技であり,初めから予定されていた勝利だと疑っていない。
 当然,セフィリアが見せた力に対しても,対戦した男たちほどには感じ取ることができず,大方の観
覧者の認識とは,「少し速いな」程度のものでしかなかった。
……速いだけだ。勝つ方法がないわけでもない……
 根底からレベルを大幅に見誤っていることに気付けないまま,参加者たちは拍手を続けながら口角を
上げた。

「ソフィ殿,素晴らしい演技でございましたな。いやはや,感服いたしました」
 演技が終わり,パーティー会場に戻ったセフィリアを待っていたのは,満面に笑みを浮かべた何人も
の市長や議員たちだった。
「是非,我が市に来ていただき,剣の指導をお願いしたいものですな」
「お目にとまりましたなら,幸いです。派遣されました折には,力を尽くさせていただきます」
 優雅な所作で礼をするセフィリアに,周囲からの舐めるような視線がまとわりつく。
 体にフィットした近衛服を,内側から押し上げている胸の膨らみ…
 スカートから,半ばほど露わになっている太腿…
 そして何よりも,周囲の目を引きつけ離さない魅力を放つ,その美貌。
 微笑を浮かべた表情には,周囲の空気を変えるほどの華やかさがあった。
……クロノスのときから見てはいたが,間近で見ると凄いくらいの美人だな……
……この女が,本当にあの市長に調教されているのか……
……何とか,派遣させることはできないものか……
 淫らな視線は,思惑となり,強い期待感へと変わっていく。
「ときに,ソフィ殿。今回の諸市への派遣期間は1カ月とのことですが……」
「それは,私も知りとうございますな。依頼が多数の場合,派遣にはどのような……」
 セフィリアを目の前にした男たちは,強い期待と欲望が膨れ上がっていくのを抑えられなかった。
 この佳い女を,自分のモノとしたい…
 裸にして乳房を揉み,男根で突き上げ,乱れる喘ぎ声を上げさせてやりたい…
 そんな下劣な想像を現実のものとすべく,欲望も露わに前のめりになったとき。
「さあさあ,皆様方,あちらに冷たい飲み物を用意してございます。ご一緒にいかがですかな」
 絶妙なタイミングで現れたのは,キルムベート市長だった。
「さあ,ソフィ殿もこちらへ」
 パーティドレスへと着替えさせることなく,公開演技の衣装そのままに参加させているセフィリアの
手を取ると,その細腰をこれ見よがしに抱き寄せ,キルムベート市長は周囲を先導していく。
 その光景は,市長がセフィリアを,普段どのように扱っているかを如実に示すものだった。
「これはありがたい……。市長のお話を,ちょうどお聞きしたいと思っておるところでした」
 腰を抱く市長の手が,曲線美に満ちた尻に張り付いている……羨望の目が離せない。
 男たちの思考はギラギラと,セフィリアをどうすれば派遣させられるかのみに囚われていく。
 交渉では通常,腹の探り合いと条件を小出しにしていくところから始まるものだが,もうそこから始
めるつもりはなかった。
 欲望に満ちた交渉は,キルムベート市長の主導を保ったまま,驚くほどのスピードで進んだ。


次回予告


 
……これは……予想外でした……
 目覚めたセフィリアは,自分の状況に嘆息した。
 強力な睡眠薬を混入されたワインを差し出され,気付かないふりをして口を付けた後,しばらく不毛
な会話を続けたところまでは覚えている。
……眠っている間に,何かあることは分かってはいましたが……
 ベッドの上で,セフィリアは両手首に付けられた黒い拘束具を見つめる。
 ふと覚えた違和感に足下を見ると,足首にも拘束具が付けられていた。
 ただし,こちらは,両脚を閉じられないようにした上で足首を固定している。
 服は,昨夜着ていた公開演技の衣装のままで,脱がされてはいない。
……最初は,剣術の師範役という,派遣される体裁を整えてくれると思っていたのですが……
 溜息をつきながらセフィリアは,あらかじめ市長から言い含められていた話を思い返した。


     続く