「東城の秋」U.体育教師「鍛冶編」 5.東城の秋
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第1回


 防音設備が整った音楽室から,注意して耳を澄ませば,ピアノを弾く音が微かに聞こえてくる。
 部活や談笑に忙しい生徒たちは,その前を通り過ぎてもまるで気づかない。
 とりたてて興味をそそられることもない,ただその程度の音。
 だが,その音を奏でている者の姿は,この上ない淫らな色に染め上げられていた。

「あっ,くうぅ・・んっ! うぅん・・っ・・先生のが入ってくる・・っあああぁっ」
 ピアノを弾く東城は,腰掛けさせられた鍛冶の上で悦楽の声を上げる。
・・あああっ!・・入ってくるっ・・奥に当たってるっ!・・
 秘部が,いや体そのものが奥底からの炎に燃え上がっていた。
 真下から体を押し開き,自分を深々と貫く男根は,体内で圧倒的な存在感を誇る。
 今日も,直前まで,鍛冶の子飼いとなった水泳部員たちの嬲りを受けていた東城にとっては,男根
を入れられているだけで絶頂寸前の快感が押し寄せてくるように感じられた。
「どうだ? お待ちかねのモノの味はよ? 早く欲しかったんだろ? けどよ,今日は,体育倉庫
で随分とお楽しみだったじゃねぇか。チラと見たけどよ,お前,早くコイツをブチ込みたくて堪ら
なくなるような色っぽさだったぜ。へへへっ,お前,四つん這いでヤツらに揉みくちゃにされてた
よなあ? どうだった? よかったか? 真っ暗な中,体中をべろべろに舐め回されて,必死に口
を押さえながらイキまくるなんて,そうそう経験できるもんじゃないぜぇ。何なら,またヤツらに
頼んでやろうか?」
 硬く反り返った怒張を,その根元まで埋め終わった鍛冶は,ヒクヒクと歓喜に絡み付く濡れた秘肉
を楽しむように,胸を鷲掴みにした手で甘美な体を抱き寄せる。
 その腕の中で,ピクピクと小刻みに跳ねる東城の体を押さえ込んだのは,もう一人の責め手・・
水城だった。
「うふふふ・・東城さん,今日はそんなことをされていたの? とっても素敵ね。羨ましいわ・・
だからなのかしら? 東城さん。いつの間にか,こんなピアノの音を出すことができるようになっ
てるなんて・・見違えたわよ。今まで,どんなことが貴女をそんなに成長させたのかしらね?」
 耳元で艶めかしい息を吹きかける水城が,尖らせた舌先を入れてくる。
「っっ! うう・・うんっ・・水城先生・・っ・・」
 耳の中を探る温かな舌の感触に耐え,東城は水城の指示に逆らえないままピアノを弾き続けた。
「そうよ・・そう。ピアノを弾くのを止めないで・・貴女の言葉を表現するのよ。あぁ,こんなに
素直な可愛い女の子になっちゃって・・分かるわよ。本当は,気持ちいいことが好きなのよね? 
我慢できないのよね? うふふ,貴女の弱い処,責めてあげる」
 何ら変わらない優しげな声が耳の奥を熱く熔かし,制服の中に潜り込んできた手が胸の膨らみを
包み込んでくる。
「あ,あっ・・水城・・先生っ・・」
 東城は,訳が分からない。
・・どうして・・水城先生が・・・
 放送で,久々に水城に呼び出されたときは,こんな展開は予想していなかった。
 しかし,呼び出された音楽室・・ピアノの前で東城を待ち受けていたのは一人ではなかった。
「おっ,偉いじゃないか,東城。水城先生の教えを守った,ピアノを弾く基本姿勢,先生は感動し
たぞ。思わず,ご褒美を上げたくなってしまうな」
 大げさな声の調子で褒める鍛冶が,自分の上に座った東城の柔らかな腰を前後に揺する。
「ひぅうっ・・んんっ! っあああぁっ!」
 スカートの内部で,埋め込まれた男根が,狭い膣壁を擦り動く。
 熱く濡れた秘肉が,蕩けてしまうかと思うほどの心地よさだった。
・・あああっ,凄くっ・・凄く感じちゃうっ!・・腰を揺すられているだけなのにっ!・・
 なぜ,このような状況に自分があるのか,よく考える余裕もないままに流されていく。
 それよりも,東城の胸にあるのは,犯されれば犯されるほど,感じ方が強く深くなっていくこの
淫らな体。
 情けない浅ましいと思うのとは裏腹に,犯され墜ちていくことに,妖しい興奮はますます色濃く
胸を支配してくる。
 今や,男の欲望を体に受け,注ぎ込まれることは最高の恍惚とした瞬間だった。
「っあぁっ・・くぅ・・ぅんっ!」
 耳元に首筋に,両側から2人の唇が押しつけられ,その刺激に体がビクンと仰け反る。
「あらあら,いいわねぇ。鍛冶先生のご褒美をいただけるなんて,東城さんは幸せね。ふふふっ,
たっぷり可愛がっていただきなさい」
 耳の中に転がり込んでくる,熱く濡れた囁き。
 首筋をツッと舐め回す,熱い舌。
・・いぃっ・・気持ちいい・・っ・・・凄くて・・もう・・堪らないっ・・
 絶頂の高波がやってくる。
 火照り潤んだ瞳に憂いの色を浮かべつつ,東城は全身を駆け巡る歓喜に,鍛冶の膝の上で体を跳
ねさせた。

「ぁ・・あぁ・・んっ・・はあ・・う・・・そんな・・」
 一転して,全ての動きを止めた鍛冶の腰。
・・ここまできて・・どうして・・
 東城は,男根を埋められたままの秘部に,熱く焦げ付くような疼きを味わっていた。
「あぁ・・ぁ・・うぅ・・ぅん・・ぁ」
 辛くて堪らない。
 一度,男根の快感を与えられた秘肉は,その狂おしい欲求に淫らな雫を垂らす。
 しかし,代わりに与えられた快感は,乳首への集中的な責めだった。
「うひひひっ,東城,何だか辛そうだな? 気持ちよくして欲しかったんだろ? お望み通りシテ
やってるじゃねぇか。どうよ,俺のオッパイ愛撫はよ。水城先生と二人で,お前のこのイヤらしい
胸を可愛がってやってるんだぜ。気持ちいいだろが?」
 意地悪な笑みを浮かべ,鍛冶はセーラー服の胸元に差し込んだ手で,柔らかな乳房をまさぐる。
 二人がかりの愛撫を受ける胸は,既にブラジャーを外され,零れ出た膨らみを好きなように揉み
たくられていた。
「あぁ・・東城さん・・胸を揉まれる貴女の表情・・とってもイイわよ・・ゾクゾクしちゃう・・
半開きの可愛い唇・・そんなに喘いで・・よっぽど欲しいのね。必死に耐えて我慢して・・何て,
蠱惑的・・並の男なら,とっくに我慢できなくなって,むしゃぶりついてるわね・・ふふふ,でも,
まだダメ。まだ,上げないわよ・・」
「んく・・っ・・くぅ!・・うんっ」
 水城のしなやかな手が,乳房を強く揉みしだく鍛冶の大きな手と絡み合い,薄桃色に色づく先端
を転がすように,強弱のリズムをつけて指に挟む。
 強く・・弱く・・強く・・弱く・・
 子宮に届くその甘美な快感は,強い疼きに形を変えて秘肉をジリジリと焦がした。
・・あぁっ・・ダメっ・・乳首をそんな風に摘まれると・・っ・・・アソコがっ・・
 つい,責めをせがむように膣壁は男根に絡み付き,締め付けてしまう。
「ん!・・っ・・あぁ・・うん・・くっ・・はあっ!・・ああん・・っ」
 東城は,ピアノを弾くこともままならず,指を鍵盤に置いたまま,眉根を寄せて切なく喘いだ。
 男根を締め付けてしまうと,一瞬だけの快感が閃く。
・・あああんっ! も,もう・・私・・我慢できない・・っ・・・
 急速に遠ざかっていく快感を追い求めようと,東城は,衝動的に腰をくねり動かした。
 恥も外聞もない。
 いや・・犯され堕とされることに興奮を覚え始めていた体は,やっと,形だけの理性の呪縛から
解き放たれることに,悦びをもって鍛冶の怒張に絡み付こうとする。
 しかし・・それは,がっちりと押さえつけた鍛冶の腕によって阻まれた。
「あっ,あぁ・・っ・・か,鍛冶先生・・っ・・」
「いひひっ,気持ちいいだろ? スケベな東城綾ちゃんよ。でも,勝手に動いちゃダメだぜ。水城
先生は,まだだって言っただろ? 先生の言いつけは,ちゃんと守らねぇとなあ?」
 耳元に囁かれる,意地悪な鍛冶の声。
 東城の胸に,言いようのない焦燥感,切なさが溢れんばかりに募り出す。
・・どうして・・どうして,させてくれないの?・・
 淫らな衝動を押さえ込まれていることが,幸なのか不幸なのか,もう分からなかった。
「どうして・・・」
 恨みがましい潤んだ目で,水城を見上げる。
 水城は,東城でさえもゾクッとさせるほどの妖艶な笑みを浮かべていた。


第2回


 紅く濡れた口元も妖艶に,水城は東城の正面に跪く。
「東城さん,貴女には,お礼をしなければならないと思っていたのよ・・」
「お・・お礼・・?」
「そう,お礼よ・・うふふふっ・・」
 曇りなどまるで感じられない,明るく朗らかな,そして実に楽しげな声だった。
 謎かけを楽しむような微笑を浮かべ,水城はピアノと東城の間に割って入ってくる。
「東城さんには,きっと分からないことでしょうね?・・でも・・最近,私に呼び出されなかった
理由・・考えたコトあるかしら? それとも,呼び出されなくてホッとしてた?」
 足元に跪いた水城は,制服のスカートの裾に手をかけ,少しずつたくし上げ始める。
「く・・んぅ・・ぁ・・それが・・どういう・・」
 鍛冶の太い指に乳首を弄られながら,東城は唇を噛む。
 久しく忘れていた何かを,思い出させるような手つきだった。
 水城の手は,白いふくらはぎをソフトに撫で回しつつも,ことさら羞恥を煽るように,ゆっくり
とスカートをたくし上げていく。
 素肌を触られるだけで,ゾクッとしたものが奔った。
「会いたかったわ・・東城さん・・この可愛い体・・私が愛してあげたのに・・ねぇ,覚えている
でしょ? でも,鍛冶先生のものにされてしまったのね・・・可哀相に・・」
「ん・・はぁ・・ぁ・・先生・・」
 脚の付け根近くまで捲れたスカートは,純白の下着をチラチラと覗かせている。
 鍛冶に買い与えられ,弟には『勝負下着』とからかわれたパンティ・・
 その洒落たパンティに視線を注ぎつつ,水城は,剥き出しになった白磁のような太腿にしなやか
な手を這わせた。
「うふふ・・可愛いランジェリーね・・光沢があって,レースが綺麗・・鍛冶先生の見立てかしら?
東城さんが,こんなものを身につけてたら,きっと誰でも誘われてしまうわね・・でも・・」
 今や,その可憐さは別のものに塗りつぶされ,体の奥から溢れる蜜にぐっしょりと濡れそぼって
しまっている。
 そして・・その奥で純白のパンティを横にずらし,内側から剥き出しの濡れ光る秘肉に,ずっぷり
と埋め込まれた鍛冶の怒張。
 水城の目が,すっと細くなる。
「あぁ・・見ないで・・先生・・っ・・どうか・・見ないでください・・」
 水城の,恍惚とした視線がソコに注ぎ込まれるのを感じ,東城は顔を真っ赤にして左右に振った。
 今まで,何回となく犯されてきた東城にしてみても,鍛冶と結合させられている処を覗き込んで
直接見られるのは,気が遠くなるほどの恥ずかしさだった。
「うふふふ・・ココ,凄いわよ。ほら・・後から後から,こんなに蜜が溢れてくる・・鍛冶先生の
が,そんなに気持ちいいの? そうよね・・気持ちいいのよね・・あぁ・・こんなに逞しいモノを
入れてもらえて・・妬けちゃうわ」
「あ・・ぁ・・だめ,見ないで・・あっ・・く,くぅん・・っ・・先生っ・・」
 水城の指が,パンティの中に滑り込んでくる。
「あっ・・あっ・・あ,あっ!・・んあぁっ」
 強引に貫かれた秘肉が,今度は,細やかな指遣いに包まれた。
 何本もの触手が,的確な責めでソコに襲いかかってくるような感覚。
 水城の指が這う度,敏感な花びらのそこかしこに,快感の閃きが幾つも奔る。
・・どうして,こんなにっ・・・き,気持ちいい・・っ・・おかしくなっちゃうっ!・・
 これほどまでに淫靡な世界・・東城は目が眩む思いだった。
 秘部を強引に犯されながら,繊細な指遣いで秘肉を触られ・・
 上半身では,耳やうなじを舐めしゃぶられながら,乳首を弄られ・・
 何も考えられなくなりそうな意識の中,水城の声が淫魔さながらに響いてくる。
「ふふふっ・・どう? いいでしょう? 貴女のココ,私がもう一度,たっぷりと可愛がって上げ
たかったのよ・・本当よ。ずっと,そう思っていたの・・・ほら,鍛冶先生って,ちょっと強引で
乱暴でしょう? それが堪らない人には,凄くハマるんだけど・・東城さんみたいな女の子には,
もっと優しく・・蕩けさせて上げてからじゃなきゃ・・ね? そうじゃなきゃ,鍛冶先生の気持ち
よさが分からないでしょ?・・・ホント,困った人なのよね,鍛冶先生って・・」
「せ,先生・・? あっ,くうぅ・・んんんっ!」
 パンティの中で,たくさんの細い触手が蠢く。
 水城の言葉は,得体の知れない不気味さに満ちていた。
 漠然と感じていたものが,急に形を為し始める。
・・水城先生・・っ・・
 何かを言いかけようと,しかし問うべき言葉に思い至らず,東城は喉を仰け反らせて喘いだ。

 乱暴? ハマる? 気持ちよさ? 困った人? 呼び出さなかった理由? お礼?
 分からない・・
 目の前にいる水城は,どこをとっても以前と何も変わらない。
 柔らかくも凛とした声。
 相手を魅了する,美しくにこやかな表情。
 けれど・・・
「だからね,東城さん」
 指の責めを緩めることなく,水城は言葉を続ける。
「だから,私が可愛がって上げたかったんだけど・・でも,よかった。安心したわ。だって,東城
さん・・こんなに・・心から気持ちよさそうに,鍛冶先生に入れてもらっているんですもの」
「水城・・先生・・」
 東城は,震える声を漏らした。
 胸に,嫌な予感が込み上げて来る。
 水城のこの,言っていることの違和感は何だろう。
 魂だけが入れ替わってしまったような・・まるで別人のように思える。
「うふふふ・・」
 東城の動揺を見抜いたかのように,水城は朗らかに笑った。
「やっぱり私,前と違うかしら? そうよ・・東城さん。私は,もう別人なの。そうね・・生まれ
変わったと言ってもいいわ。知らなかったでしょうけど,私は鍛冶先生に抱かれてるの。そうね,
最初は無理矢理だったわ・・・貴女とのことをネタにね。何度も何度も,犯されたわ。うふふ・・
でも間違わないで。貴女を恨んではいないのよ。それより,むしろ感謝さえしているの。こんなに
素晴らしい快感を知ることができたんですもの。あぁ・・この逞しいモノに,激しく貪られるよう
に犯されてしまった,あの夜の興奮・・忘れられないわ・・・だからね,東城さん・・貴女がもし,
このよさを味わえない女の子のままでいるのだとしたら,それはもったいないことだと思ったの。
そうね・・貴女は,もう立派な女よ」
 水城の指が,パンティを更に横にずらした。
 鍛冶に貫かれた秘肉が,あますところなく外気に当たる。
「だから・・一緒にこの世界を楽しみましょうね」
 水城は,東城の体内に埋まり切らずに露出していた鍛冶の男根を見つめ・・そして,ゆっくりと
赤い舌を這わせた。


第3回


 パンティから,濡れた花びらが剥き出しにされ,細い舌が周囲を這い掻き分ける。
 女のツボをえぐられるような,甘い痺れが閉じられない股間いっぱいに閃いた。
「んうぅっ! あっ,あっ・・ダメっ先生っ,ひああああっ!」
 突き刺さった男根ごと,秘肉を舐め回す舌の動き・・東城は太腿を引きつらせて悲鳴を上げる。
「おぉっ・・へへへっ」
 鍛冶は,楽しげだった。
 鍛冶は,くっと胸を反らせた東城の乳房を揉み上げながら,猫のような仕草で愛撫を続ける水城
に心地よさげな目を向ける。
「うへへへっ,水城先生,いい気持ちだぜ。しかし,まあ,水城先生がそんなに俺のコイツを気に
入ってたなんてな。そんなに妬くなって。後でまた,たっぷりと苛めながら犯ってやるからよ」
「うふふふっ・・嬉しいわ,鍛冶先生。その言葉,忘れないでくださいね・・・はぁ・・ぁっ・・
早くコレを口に入れさせて・・」
 口の端々から漏れる溜息が,水城の情感の高まりを物語っていた。
 水城は,唇で男根を横向きに挟むようにして咥えると,ツッと舌を滑らせていく。
 その刺激に,ビクビクと男根が脈打つのが,さも嬉しくて堪らないといった風体だった。
・・嘘っ・・水城先生が・・そんな・・っ・・
 自分の股間を舐め啜り,鍛冶の男根に舌を這わせ・・・この淫靡な雰囲気に,自らを進んで沈め
させている水城。
 その様子は,東城にとって地獄絵図にも等しい。
 大人の女,それも毅然としていた水城が,体面もなく嬉々として男を求める様は,東城にとって
ショック以外の何ものでもなかった。
・・いや,いや・・こんなの見たくない・・
 それは確かに,東城自身,今まで何回となくさせられていた行為ではあった。
 ひとたび,エロティックな欲求と興奮に呑み込まれてしまえば,特別どうという抵抗感もなくなる
行為・・・しかし,その行為に没頭し乱れる『女』の姿は,客観的に見ると東城の想像を遙かに超
える浅ましさだった。
・・こんな姿・・見せないで・・いや・・見たくないのに・・私,いや・・っ・・
 呆然となりながらも,東城の胸に水城の姿を否定したいと思う感情が迫り上がってくる。
 はしたない・・
 狂ってる・・
 淫乱・・
 いくつもの言葉が,頭に浮かんでくる。
 しかし,それは結局のところ,自分自身に突きつけられた言葉であった。
 水城の姿を介して見えるもの・・それは,紛れもなく自分の客観的な姿だった。


『大丈夫・・何も,変わっていない・・』
 犯され乱れた日の夜は・・帰宅後の入浴で,恐る恐る自分の姿を見るのが日課だった。
 あれほど舐め回され,汚され,淫らな感触が奔った肌・・見るのが恐ろしい。
 しかし・・思い切って,鏡に映して目にした姿は・・
 顔も,ふっくらとした胸も,ヒップも・・
 白い肌は何一つ変わらず,どこをどう見ても,汚されたものには見えなかった。
 ふぅっと,安堵感が胸一杯に広がる。
 大丈夫,今までと,何も変わらない。いつも通りの自分。
 そう思える。
 もしかしたら,まだ私は前に戻れるのかもしれない。
 戻れると信じたい・・
 戻れると・・一縷の望みに縋っていたかった。


 だから,プールの更衣室で,ついに自分から求めてしまった今となっても・・ついさっきまで,
悦楽を求めて自ら腰を振ろうとしていながらも,でももしかしたらという思いが東城にはあった。
 今の今まで・・
 だからこそ,東城は余計に水城の姿を否定したかった。

・・あの・・水城先生の姿・・あれが,本当の私・・
 唇を噛む東城の中で,今まで縋ってきたものが瓦解していく。
 いや,もしかしたら,自分が信じようとしていたものなど,最初から幻想だったのかもしれない。
 バスの中で,鍛冶の自宅で,学校という品位のある場所でさえも・・快楽の舞台設定として秘部
を濡らしていたのは他ならぬ自分自身。
 そこで,性の悦楽に狂わされ,秘部を男根に擦りつけたのは誰だというのか。
 そして,さっきまで,ただ闇雲に快楽を求めて腰を振ろうとしたのは誰だというのか。
・・分かってる・・私は・・本当は,淫らな女・・
 強制でも何でもない,自分自身の心からの声がはっきりと聞こえ始める。
・・欲しい・・・水城先生・・エッチで綺麗・・
 鍛冶のモノを唇に挟む水城が,とても妖艶に見えた。

「んっ・・はあっ・・んんぅ!・・くっ!・・ん・・っ」
 耳や首筋を温かな舌が這い,鷲掴みにされた乳房で乳首がくりくりと摘み転がされる。
 硬く太いモノに犯された秘部には,水城の唇全体が押しつけられ,柔らかく揉むような唇の愛撫
が加えられていた。
 二人の声が,耳に響いてくる。
「本当に素敵。鍛冶先生の・・んっ・この血管の浮き出た・・硬いモノを突き刺されて・・とって
も気持ちよさそう・・東城さん・・奥から熱い蜜が・・ほら・・こんなに・・」
「どうだ? 最高にイイだろう? いひひひっ・・ずっと,こうしていてやろうか? いいぜぇ,
1時間でも2時間でも,ずっとこうしていてやるよ。ひひひっ,俺のコイツを咥え込んでるお前の
ココ,入れてるだけでメチャメチャ気持ちいいからな・・何なら,今日はこれから俺の家で続きを
楽しもうか?」
 その愛撫に,イヤらしい声に,どうしようもなく体が震える。
・・欲しい・・して欲しい・・イキたい・・もうダメ,我慢できない・・
 蕩けた膣壁は,勝手に体内の怒張を締め付けてしまう。
 体の芯が熱く疼き,燃え上がる機会を今かと待ち焦がれて悲鳴を上げていた。
「鍛冶先生・・っ・・」
 東城は,今まで清らかさの象徴だった顔を妖しさに変えて,切羽詰まった声で鍛冶を振り返る。
「シテください・・もう意地悪しないで・・こんなに辛いのはイヤ・・お願い・・」
 鍛冶の顔が,よりイヤらしく好色に歪むのを,東城は胸の高鳴りとともに見ていた。

 戻れぬものならば・・
 糸が切れる寸前,東城とふと考える。
 戻れぬものならば・・せめて,完全に墜ちてしまいたい・・
 後悔さえもできないほどに・・


「あうぅぅ!・・んっ!・・奥にっ・・はっ,はあっ! 奥まで入れてっ! あぁああぁっ!」
 自ら怒張を深く咥え込もうと,腰を大きく上下に,そして前後に動かす。
 鍛冶に抱っこをされるように抱き寄せられた東城は,ヒップに添えられた手に導かれるままに,
自ら腰を淫らに使う,
 体の芯まで太い杭に貫かれるような圧迫感が,東城の理性を崩壊させていた。
「もう,どうでもいいっ! 私をっ・・私を滅茶滅茶にしてっ! んんっ! っあぁあああっ!」
 今まで,連日に渡り,犯される度に長時間の焦らしを受け耐え続けてきた東城は,もう身も心も
限界だった。
 自分を征服しようという意思を持つ男根に,自ら進んで腰を押しつけて体内に沈め,存分に快感
を求める。
「くくくっ,そんなにコイツがイイのか? ほれ,もっと奥まで突き上げてやろうか? そら,犯
されて気持ちいいと言ってみろ! 何度でもイカせてやるぜ」
「んああぁっ! 気持ちいいっ! 先生に犯されてっ・・凄く気持ちいいですっ! ぁ,あぁっ!
ま,またっ・・またイッちゃうぅっ・・くっ・・はぁああああぁぁっ!」
 一旦,言葉にして口にしてしまうと,もう止まらなかった。
 抑えてきたものが解き放たれ,イヤらしい言葉が,次から次へと口を突いて飛び出してくる。
「ああぁぁっ! ううぅんっ! す,凄いぃっ・・はあぁっ! こんなの・・こんなのっ・・くっ,
うぅんっ! もう,もうダメになっちゃうぅ・・あぁ,ぁ・・先生・・っ!」
 今まで,出したこともないような甘い声。
 普通なら,自分で聞いているだけで恥ずかしくなる声を室内に響かせ,東城は鍛冶に訴えた。
・・もっと,もっとシテ欲しいっ・・もっと酷いことして,私を狂わせてっ!・・
 細い腰から,くっと突き出た丸いヒップをくねらせ,呑み込んだ男根に根元まで擦りつける。
 興奮に掠れた声が,男の暴虐をせがんでいた。
「鍛冶先生っ・・私をもっと抱いて! どうか激しくっ・・激しく抱いてください! 奥まで・・
思い切り突いてっ・・あああっ! いいっ!・・」
 長い睫毛を切なく揺らし,嗚咽混じりに叫ぶ。
「げへへっ,凄ぇ気持ちいいぜ,東城のココはよ。出し入れする度にキュッと絡み付いて,そんな
に俺と離れたくないってか? まったく,お前の体はどこもかしこも気持ちいいぜ。ほれ,ちゃん
とキスさせろ。たっぷり味わってやる」
 昂ぶる欲情を誘われた鍛冶が,息も荒くふっくらとした唇を奪いに来ると,東城はそれを進んで
迎え入れるかのように細い腕を首に回した。
「あぁんっ!・・んむっ!・・はぁうっ・・はい・・キスして・・っ・・キスされながら奥まで入
れられると,凄く感じるのっ・・あ,あんっ!・・ん,ん! んううぅぅっ!」
 半開きの唇に,鍛冶の唇が強引に入り込み,くちゅくちゅと内部が掻き混ぜられる。
 同時に,腰の上下の動きに合わせて,力を漲らせた男根が突き込まれてきた。
「はああうぅっ・・!」
 その勢いと圧迫感に,思わず息が止まる。
 体の芯が,沸騰するかと思うほどの熱い悦楽だった。
「そら! 存分にくれてやる! コイツがイイんだろ? くくくっ,イヤらしい腰の動きしてるぜ。
学校一の美少女,東城綾が,俺の上で腰を振ってよがり泣いているなんてよ! うひひひっ,最高
だな! そら,コイツはどうだ?」
 ビクンと跳ねた腰が掴まれ,更に重量の乗った一撃を体内に送り込まれる。
「く,くっ! ん・・はっ!・・あ・・ぁっ!・・くぁ・・ぁ・・」
 体の最奥にズシッと届く戦慄が,ゾクゾクとした寒気となって込み上げてきた。
・・あ・・も,もう・・イ,イク・・っ・・
 体が硬直を始め,唇がわなわなと震える。
 しかし,そのまま絶頂を迎えることは許されなかった。
「そらっ,どうだ! そろそろ,またイクんだろ? イカせてやるよ,コイツでなっ!」
 甘美な快楽に酔った鍛冶が,更に・・二撃,三撃と男根を力強く打ち込んでくる。
 一回一回,十分にタメをつくり,大きな動きで打ち込まれる男根・・東城は,満足に声も出せず,
口をぱくぱくさせて苦しげに喘いだ。
「あぁ・・っ・・せ,先生・・! ま,待って・・っ・・そんなことっ・・され・・されたら・・」
「げへへへっ,イクのか? もうイクのか? まだ早いだろ? そら,もっと味わえよ!」
 ヒップを抱えられ,大きな動きで男根の上に落とし貫かれる。
 迎える鍛冶の腰が,力を込めて東城のヒップに打ち付けられた。
・・あ・・あ・・もう・・も・・う・・ダメ・・
 宙に浮いた両脚が,鍛冶の腰に巻き付く。
 東城は・・理性をその存在すら忘れ,すべてを忘れた。
「あぁっ,あっ,ぁああああぁぁーっ!」
 東城は,強い電流を全身に感じたように体を弓なりに反り返らせた。


 音楽室の奥,教官室に続くドアがゆっくりと開け閉められた。
「あらあら・・ちょうど,いいところだったようね?」
 いつの間にか消えていた水城の声が,横合いから投げかけられる。
 数え切れないほどの絶頂の余韻に,意識をボゥと薄れさせかけていた東城は,ゆっくりとそちら
に目を向け・・はっとした。
 心臓が破裂するかと思うほどの衝撃が全身を奔る。
「ま・・真中・・くんっ・・」
 脳が激しく揺さぶられたような気がした。
 紛れもない真中が,そこに呆然と立っていた。
「東城・・俺・・・」
 真中の下半身は,裸だった。
 ただ,そこにある股間のモノは力なく垂れ下がり・・透明な雫がうっすらと見える。
「うふふっ・・真中君のココ,貴女の声でパンパンになっちゃって・・あんまり辛そうだったから,
私が楽にしてあげたのよ。気にしないでいいのよ。いつものコトなんだから。うふふふ・・苦くて
濃かったわぁ・・」
 朗らかに笑う水城は,どこまでも美しかった。
 東城は,何も言葉が見つからず,ただ愕然とした顔のまま,二人を見つめる。
「うふふふっ・・」
 水城の唇を舐める紅い舌が,東城に見せつけるようにチロチロと妖しく蠢いていた。


第4回


「い・・いつものコト・・って・・」
 心の中で膨れあがる不吉な想像に耐えきれず,東城は掠れる声を絞り出した。
 顔を背けた真中に期待した答えは得られず,縋る目で水城を見つめる。
 しかし,その答えは非情だった。
「あら,大したことじゃないのよ。東城さんと同じコトよ。東城さん,鍛冶先生の指導にかかりっ
きりで真中君を放っぽらかしてたじゃない。うふふ,真中君だって寂しかったはずよね。貴女の名
前を出したら,すぐに乗ってきたわ。だから,せめてと思って,私が真中君を相手して上げていた
の。いろいろと・・そうよね?」
 真中は顔を背けたまま,何も答えない。
 同じコト? 相手?
 東城はまだ,水城の言葉が信じられない。
 信じたくなかった。
・・まさか・・まさか・・真中君が・・そんな・・違う・・きっと,そこまでは・・
 脳裏に浮かぶ,男女の重なり合う姿・・
・・いやっ・・
 東城は,心の中で叫んだ。
 そのぼやけたイメージが,まだはっきりと形を成す前に急いで頭から振り払う。
 その先に浮かぶ想像は,何としても否定したいことだった。
「いろいろ・・・って・・何のコト?・・まさか,嘘よね・・ね,真中君・・っっ」
 自分は,一番大切にしたかった真中をも巻き込んでしまったのか。
 大好きだった真中は,本当に水城と肌を合わせたのか。
 どうしても,安心できる答えが,真中自身の口から欲しい。
 だが,その問いは第三者によって中断された。

「あぁっ」
 体が,不意に持ち上げられ,次いで綺麗に整った木目調の床に下ろされる。
 正面に真中の姿を確認したところで,四つん這いにさせられた腰は,鍛冶の大きな手にがっちり
と掴まれていた。
「へへへ,何のコトって,もちろんこういうコトに決まってるじゃねぇか。お前の代わりに,水城
先生が身を挺して指導くださったんだ。何とも,ありがたい話だよな?」
 スカートが捲り上げられ,男根の先端が,再び後ろから押し当てられる。
 東城は狼狽した。
 今,犯されたら,自分のあられもなく乱れる姿をあますところなく見られてしまう。
「先生っ,待ってっ・・お願いです,今はっ・・今は許してっ・・」
「いいじゃねぇか。どうせ,さっきまでのお前の声は聞かれているんだ。愛し合う男女の姿という
ヤツを,真中のお坊ちゃんにも見せてやろうじゃねぇか。そら,入れてやる」
「あ,あっ,そんなっ・・真中君,お願い,見ないでっ・・・くっ,んううぅんんっ!」
 男根先端の太い部分が,濡れた秘肉を押し分け,ヌルヌルと入ってくる。
 ただそれだけで,乱れずに耐え切れるかという思いは,跡形もなく砕け散った。
「やっ,やだっ・・あっ,ん,うぅんっ! んっ! くっ! はっ・・あぁあっ!」
 根元まで入れられた男根は,ゆっくりと引き抜かれ,そしてまた体重の乗った突き上げとともに,
奥まで届けとばかりにえぐり入ってくる。
 鍛冶の腰がヒップに打ち付けられる度,東城は華奢な肩を前後に揺らし,曲線美に満ちた背中を
反らして短い悲鳴を上げた。
「どうした? もっと声を上げろよ。お前のココは,ドロドロに熱く蕩けて悦んでるぜ!」
「いやっ,先生っ! あ,あっ! はっ,うぅん! だめっ! やめてっ,いやあぁっ!」
「そらそら,その声・・まったく,男を奮い立たせるエッチな声だよなあ。そんなに気持ちイイか?
嫌がる振りしたって,ちょっと突いてやれば,俺のコイツをキュッキュッと強く締め付けてくるじゃ
ねぇか。くっくっくっ・・凄ぇ気持ちいいぜぇ。男をこんなに気持ちよくしてくれるなんてよ・・
東城,お前のココは,ずっと入れていたくなる素晴らしい味してるぜ」
「いやぁっ・・そんなこと言わないで・・っ!・・んっ! んんうっ! っあああっ!」
 真中の前とはいえ,秘部を嬲られる快楽の味を知ってしまった体は,抗う意思とは関係なく次の
絶頂を望み,主人を追い詰めていく。
・・あぁ・・っ・・もう駄目・・真中君の前だというのに・・私・・もう自分を抑えられない・・
 甘く叫ぶ声を上げ,好きなだけ体をくねらせたい・・
 しかし,それは,もう時間の問題でしかなかった。
「やめろっ!」
 そのとき,大きな声が響く。
 怒気をはらんだ声,それは両手をブルブルと握り締めた真中のものだった。

「やめろ! よくも・・東城を・・これ以上,東城を嬲りものにするのはやめろ!」
「ま・・真中君・・っ・・」
 東城は長い黒髪を床に乱し,高く掲げたヒップを鍛冶に引き寄せられたまま,荒い息で真中を見
上げる。
「信じられるものか・・よくも,こんなことを・・東城が望んでいるなどと・・いくら,声を聞か
されたからといって・・姿を見せられたからといって,騙されるものかっ・・東城が,本当に心の
底から・・こんなことを望んでいるわけがないじゃないか!」
 真中は,先ほどまでの呆然とした表情から一変し,自らを奮い立たせるように真っ直ぐに鍛冶を
見据えていた。
・・真中君・・・
 期せずして,差し込まれた一筋の光。
 言葉の奥に隠れたものを,真中は理解ししてくれるというのか。
・・本当の・・心の底からの私・・・
 このドロドロとした暗闇から,もしかしたら私は救われるのかもしれない。
 所詮は叶わぬことと,何度も思い描いては諦めていたものが蘇ってくる。
 そう思った矢先・・
「どうせ,お前たちが,無理矢理に言わせたに違いないんだ。東城が・・そんなことを自分の意思
で言うわけがない。強制されたに決まっている。こんな簡単なこと,もっと早く気づくべきだった。
だいたい,東城がこんなイヤらしいことを,自分の意思で求めるわけがないじゃないか!」
 真中の答えは,東城の肺腑を鋭くえぐった。

「・・・っ」
 稲妻のように鋭く奔った真中の声に,東城は震え,言葉を失った。
・・私は・・それを確かに・・強制ではなく・・自分の意思で求めて・・しまった・・
 以前の自分では,あり得なかったこと・・
 頭の中が,真っ白になっていく。
「東城は,そんな女の子じゃないんだ。誰よりも純粋で,いつも優しく笑ってくれて,とても綺麗
な心を持っている女の子で・・だから傷つきやすくて・・そんな清らかな女の子を,無理矢理に犯
して侮辱して・・よくも東城を,散々に傷つけてくれたなっ!」
 せせら笑いつつ東城を犯し続ける鍛冶を,真中は激しい怒りを込めて睨む。
「ひひひっ,何を言ってやがる。ほれ,よぉく東城の顔を見てみろよ。これが本当に嫌がっている
女の顔か? どう見ても,男を興奮させるエロい顔をしてるじゃねぇか」
「下衆め! 東城は,そんなイヤらしい女なんかじゃない!」
 真中の声が,一際強く雷鳴のように轟いた。
 鍛冶ではなく,東城自身を断罪するかのように。
 東城は,思わず息を呑む。
 割って入ったのは,水城だった。
「はい,よくできました。途中までは正解よ。でも,それ以上,先走っちゃダメ。体を勝手に動か
すのもダメよ・・でないと,さっきも話した通り,東城さんの恥ずかしい画像がいろんなところに
出回ることになるから。忘れないでね。真中君だって,それくらいのことは分かるわね?」
 水城は,しなやかな腕を真中の体に絡めていきながら,頬に艶めかしく息を吹きかける。
「く,くっ・・わかってる・・」
「よかった・・わかってくれて先生も嬉しいわ・・」
 真中は,両手を握り締め,必死に耐え忍ぶかのように水城のされるがままだった。
 水城の微笑する紅い唇が,真中の頬に押し当てられる。
 細い手は,ボタンを外した真中の制服の中に滑り込んでいく。
・・いや・・
 その光景に,ズキンと東城の胸に痛みが奔った。
・・私の画像・・そんなもののために・・真中君が・・いや・・やめて・・
 恥ずかしい画像とは,恐らく鍛冶に犯されているときに撮られたものなのだろう。
 それは,東城にとって,耐え難い寝耳に水の話だったが,どうやらそのことで真中を巻き込んで
しまったらしいことが,東城を酷く苦しくさせていた。
・・私を守るために・・真中君・・
 真中の優しい性格から考えれば,自分のことを守ろうとして何でも言いなりになるのは,もう疑
問の余地がない。
・・真中君・・ごめんね・・ごめんね・・
 東城は,後ろから掴まれた腰を犯され,喘ぎながら真中を見つめる。
 自分のために,真中は水城の言いなりになっていた。
 さっきから,どうしても納得したくなかったことが,すんなりと理解できてしまった。
 それが,とても哀しかった。

 真中の体に絡む水城の手が,ゆっくりと制服を脱がしていく。
「男らしくてよかったわよ・・目の前の事実を目にしながら,呑み込まれずに『本当に望んでいる
わけがない』だなんて,その辺の男にはなかなか言えるコトじゃないわ。女として聞かされたら,
間違いなく痺れちゃう言葉よ。女のことを,だいぶ理解できるようになったのね。指導者として嬉
しいわ・・でも,惜しいわね・・あと一歩足らないの」
「ど・・どういうことですか」
「そうね・・でも,まず東城さんのイクところを,きちんと最後まで見なさい。ほら,鍛冶先生の
腰遣いも,いつの間にか止まってしまっているじゃない。ごめんなさいね東城さん,せっかく真中
君が来てくれたんだもの。ね? 見せて上げましょうね」
「・・っ!」
 水城の目が,東城の胸の内まで全てを見透かすように見つめていた。
・・そんな・・真中君の前で・・
 東城の身に,戦慄が奔る。
 それが何を意味するのか,火を見るより明らかだった。
 見られれば見捨てられる・・
 うわべだけ取り繕ってきた,今の私の・・浅ましく淫らな姿。
 凍り付く東城を尻目に目配せを受け,鍛冶の手が制服を脱がせにかかってくる。
「うへへへっ,東城,お前の色っぽい裸を真中に見せてやろうや。今まで手を出さなかった真中の
ヤツを悔しがらせてやろうじゃねぇか」
「あぁ・・んっ!・・う・・」
 反射的に抵抗しようとして,東城は動きを止めた。
・・それも,いいかもしれない・・
 セーラー服を捲り上げていく手に逆らわず,白い素肌が晒されていくにまかせる。
「やめろっ・・やめてくれっ・・東城を,もうこれ以上傷つけないでくれっ・・」
 真中の悲痛な声が,遠くに聞こえていた。
・・真中君・・ごめんね・・こうする方が一番,貴方には分かってもらえると思うの・・
 自分が何を言っても,真中君には信じてもらうないだろう。
 だいたい,この場を離れれば,自分から言う勇気も持てなくなるに違いない。
 水城先生は分かっているんだ・・
 真中君と,私とのギャップに・・
 正鵠を射た,計算ずくの水城の手。
 狡猾というには鮮やかすぎて,東城には恨みに思う気持ちはなかった。
「やめろっ,犯されてイクなんて,東城が,東城がそんなことできるわけがないだろっ」
 東城を,庇い救おうとする真中の必死な気持ち・・痛いほど,胸に迫る。
・・ふふ,真中君・・さっき私がイク声を聞いていたくせに,まだそんなこと・・本当に私のこと
信じて・・大切にしてくれようとしていたんだね・・
 嬉しかった。
 今,まさに自ら墜ちようとしている自分のことに,こんなにも真剣になってくれる。
 哀しかった。
 既に,それに応えられない自分であることに・・

・・あぁ・・・何て・・何て・・
 何と,遠くなってしまったことか。
 東城は,先ほどまでの真中の言葉を思い出していた。
 自分は,いつの間にか,こんなにも真中と離れてしまっていた・・
 真中と一緒にいた頃の自分の位置が,こんなにも遠くなっていたなんて・・
 気づかなかった・・
・・ごめんなさい・・真中君・・私は・・もう違うの・・
 東城は,目を瞑った。
 体に絡んでいたブラジャーを脱がされ,スカートが剥がされる。
・・私・・真中君が思ってくれているような女の子じゃなくなってしまったの・・凄くイヤらしい
ことをされても・・恥ずかしいことをされているのに感じてしまうの・・もっと滅茶苦茶にして欲
しくなってしまうの・・ごめんなさい・・こんな女の子なんか嫌だよね・・私のこと・・よく見て
てね・・
 やがて,全ての素肌が外気に晒されるときがきた。
「うひひひっ,いよいよ最後の一枚だぜぇ・・どれ,みんなで,お前の裸を見てやる」
 鍛冶の手が,最後の一枚の小さな布きれ・・白いパンティにかかる。
 もう,身を守るものは何も無い。
 ごくりと唾を飲み込み,苦しげに息を漏らす様子が真中から聞こえた。
 はっとする。
「は・・ぁっ・・」
 頬が火照り,ドキドキと胸が高鳴った。
・・真中君が・・私を見ている・・
 パンティが,腰の両横から太腿を通って引き下ろされていく・・
「いひひっ,だんだん見えてきたぜぇ・・」
「ああう・・ぅ・・んっ・・」
 東城は,羞恥に裸身をくねらせた。
「は・・恥ずかしい・・っ・・」
 しかし,体の芯が熱く火照っているのは,どうしようもない事実だった。
 犯された余韻ではなく,今この状況に感じ,秘部が濡れている。
・・私・・真中君に見られて・・濡れている・・
 改めて,真中の視線を意識し,東城の体にゾクゾクとしたものが奔る。
 肩が,ふっくらとした乳房が,曲線美に満ちた背中が,ヒップが・・今まで制服に隠されていた
裸身が,真中に見られる悦びで快感に包まれていた。

「ひひひ・・このくびれ・・丸み・・まったく,男をそそるイヤらしい体してるぜ」
 四つん這いの背中に,辱めの言葉が降ってくる。
「う,うぅ・・ん」
 今の東城には,それすらも快感だった。
 もう我慢できない・・
 いや・・我慢なんかしなくても,思い切り乱れればいい・・
 東城は,熱っぽく濡れた瞳で,甘くせがんだ。
「は・・早く・・先生・・っ・・んんぅ・・それを私に,入れてください」
「くくくっ,可愛い声出しやがって・・ほら,先端を当ててやってるじゃねぇか。あとは,自分で
そのスケベな尻をこっちに沈めてこいや」
「はい・・っ・・ん」
 東城は,鍛冶を誘うように,美しい形をしたヒップを揺らしながら怒張を沈めさせていく。
 濡れた秘裂に宛がわれていた怒張が,秘孔を押し広げて内部に入り込んできた。
「先生・・っ・・い・・ああぁっ・・入って・・くる・・っ」
 東城は,半開きの唇から抑えられない喘ぎを漏らす。
 この,入ってくる瞬間・・それこそが,東城が,最も待ち望む瞬間だった。
「はっ・・あぁ・・ぁんっ・・す,凄く・・っ・・いぃ・・」
「東城っ・・ダっ,ダメだっ・・」
 真中の声は,興奮を高めるBGMだった。
 真中に見つめられると,脳天を突き抜けるような電気がビリビリと奔る。
「あ,あぁ・・っ・・ん・・気っ・・気持ちいぃ・・っ・・です・・先生っ・・」
 ゆっくりと男根を迎え入れ,内部に埋め込んでいくように・・東城は,鍛冶の下腹部に自ら秘部
を密着させた。

「あぁ・・ぁん・・・どうにかなりそう・・っ・・」
 鍛冶を受け入れた最深部は蕩け,燃えるような熱さに包まれていた。
「うへへ・・ちゃんと根元まで入れられたようだなぁ。上出来じゃねぇか」
「はっ,はぁっ・・はぁぅ・・ぅっ・・あぁんっ・・」
 東城は目を瞑り,根元まで埋め込んだ男根に意識を集中する。
 膣内に感じるのは,この体を支配しようとする鍛冶の男根・・
・・とても・・とても気持ちいい・・あぁ・・欲しい・・もっと感じたい・・・
 狂おしい欲求のままに,東城は腰を動かし始めた。
「おっ,東城,気分を出し始めたな?」
「と,東城・・っ・・」
 二人の男の視線を感じつつ,東城は自ら体を前後に動かしくねらせる。
 その度に,果実のような乳房がプルプルと揺れ,鍛冶を誘った。
「いい・・いいの・・・鍛冶先生・・っ・・んんっ・・ああぁっ・・もっと・・もっとして・・」
 色気に満ちた溜息が漏れ溢れる。
 甘く切なげに求める声は,鍛冶だけでなく,真中の耳の奥にも熱く響いた。

 鍛冶は,ニヤニヤと見下ろす。
 体をくねらせ,快感を求める東城の裸体。
 何度も快感をせがんでは密着してくるヒップの柔らかさ,甘美さは得も言われぬものがあった。
「東城のこの腰つき,堪んねぇよなあ,なあ真中? 見れば見るほどイヤらしい裸だと思わねぇか」
「く・・くっ・・」
「お前だって,本当は東城を犯りてぇだろう? 代わってやろうか? 無理しなくていいんだぜ?」
「ふっ,ふざけるなっ。お前と一緒にするなっ,この変態教師め・・」
 しかし,そう言いながら,真中の股間は再び硬く屹立する。
 悔しそうに目を背けても,東城の声はどこまでも甘く真中を誘った。
「くくくくっ・・・そうか? じゃ,俺が遠慮なくいただくか。まあ,もっとも,お前じゃ東城を
満足させられもしねぇだろうからな」
 鍛冶は,一つ舌なめずりをすると,くびれたウエストラインを掴んで強引に引き寄せる。
 それと同時に,自らの腰の動きで,カマ首をもたげた怒張に体重を乗せ,腰の芯部まで一気に打
ち込んだ。
「あ,あっ,鍛冶先生! ひっあああぁぁっ!」
 一際,鮮烈な快感。甘美な衝撃。
 東城は,背を美しく反らせて甲高い悲鳴を上げた。
 鍛冶は,真中に見せつけるように,腰を退いては丸いヒップに強く打ち付ける。
「東城,可愛い顔して,恥ずかしい処はもうすっかりビショビショじゃねぇか。もっと気持ちよく
してやろうか? ほらほら,こうやってよ。どうだ? 先生の腰遣いはイイだろうが? え?」
「くあああぁっ! は,はいっ・・んん,っううぅっ! 気持ちいいですっ・・うく,くぅんっ!
先生のが激しく入ってきて・・おかしくなっちゃう,っぁああああぁぁ!」
 遠慮仮借のない責め。
 欲望に滾る怒張をねじこまれ,東城は全身を引きつらせて泣き悶えた。
「くくくっ,真中,こんなに美味い体を,今まで手を出さなかったなんて勿体ねぇ話だぜ。さっさ
と自分のモノにしておけば,この美味い体を存分に味わえたのに残念だったなあ? なあ,東城?
さあ,そろそろイクか? イカせて欲しいだろ?」
「んぅぁああぁっ! はいっ,イカせてくださいっ! やっ,ひいぃんっ! うぁあああぁっ! 
先生のが奥でっ! 奥で,一番感じるところに当たって・・っぁあぁぁ! ソコ・・奥まで突いて
くださいっ! んううぅんっ! もう・・もう,イッちゃうぅぅっ!」
 東城は,堪えきれない快感を振り払うかのように,長い黒髪を振り乱して身悶える。
 ヌルヌルと甘い蜜を溢れさせる秘孔は,突き込まれた怒張を熱く包んで,ビクビクと歓喜の収縮
を繰り返した。


第5回


 目の前で,二つの影が絡み合っている・・
「東城・・どうして・・こんなことに・・」
 真中は,完全に打ちのめされていた。
 清らかで純粋だと信じて疑わなかった東城が,今,自分の目の前で犯されている。
 いや,犯されているという表現は,もはや当てはまらない。
 甘い喘ぎ声を上げ,自ら腰を遣い快感を求め・・
「なぜ・・どうしてなんだ・・」
 鍛冶と東城のやりとりだけ見れば,最初は完全にレイプだった。
 そのはずだ。それ以外に考えられない。
 それなのに,東城のこの表情・・
 この言葉・・
「ああぁっ! 鍛冶先生っ,気持ちいいですっ! うっ,ああっ・・イッちゃううっ!」
 白い裸体を惜しげもなく晒し,甘い声を上げながらのたうつ肢体は,恍惚とした快美感に満ちて
いる。
 東城は,もはや真中の知る東城ではなくなっていた。

 小説を書きしたためていたノートを見られ,頬を赤くしていた東城・・
 暴風雨の夜,廃屋で震えながらも体を温め合った東城・・
 いつも,自分の名を嬉しそうに呼んでくれた東城・・
 今までの東城の姿が,浮かんでは消えていく。
 だから・・
 本来なら,耳をふさぎたくなって当然のはずだった。
 目を背け,この場を去りたくなって当然のはずだった。
 それなのに・・
「くそっ・・畜生っ・・」
 真中は,我知らず,奥歯を噛みしめる。
 最初は,東城を汚す者に対する,憤りのつもりだった。
 しかし,股間が痛くなるほど,ガチガチに張り詰めているのはどういうことなのか。
 さっきもそうだ。
 東城が,二人がかりで体を弄ばれている様子に,イキそうになるほどの興奮を感じていたのは,
いったい誰だというのか。
「ふふふ・・ココ,こんなに硬くして。貴方も感じているのね? 真中君も,ただ優しいだけの男
ではなくて,オスだというコトよ。うふふ,シタいんでしょ?」
 目の前で,ブラウスの胸をはだけさせた水城に,真中は唾を飲み込んだ。
 真っ白な肌に,メリハリのある体つき。
 細く引き締まったウェストから延びる上体では,意外に量感のある乳房が,たとえようもない色
気を放ってブラジャーに包まれている。
 カップから露出した,胸の丸い膨らみが,やけに生々しかった。
「やめろ・・先生っ・・」
「嘘。今の,真中君の胸の内くらい分かるわ。体がメスを求めて仕方がないのよね? これはね,
理屈じゃないの。本能なんだから,仕方がないのよ。今まで,体を貸してきたよしみで,私を好き
にさせて上げるわ。さ,真中君・・」
「違う・・イヤだ・・」
 真中は,苦しげに拒絶する。
 ブラジャーとパンティだけになった水城が,真中の体に絡み付いてくる。
 真中は,それを押しのけ,拒否することができなかった。
「ぅ・・っくっ・・せ,先生っ・・」
「うふふ・・ほら,肌どうしが温かい・・どう? 先生の体・・気持ちいい?」
 触れ合う肌と肌・・
 制服を脱がされていた体に奔ったのは,残酷なほど甘美な衝撃だった。
・・だ,だめだっ・・負けちゃいけない・・
 歯を食い縛る。
 だが,勝負は最初から見えていた。
 真中の頭の中で,今まで何度も味わった,水城の体の甘美さが蘇ってくる。
 身も心も蕩けるような,あの快感・・
 今まで何度も欲望に負け,その度に自己嫌悪に苛まれ,それなのにまた欲望に負けてしまう自分
の弱さ・・
『抱きつき,押し倒したい・・』
『柔らかな肌を,心ゆくまで味わいたい・・』
 体の奥底から声が聞こえてくる。
 真中は,自分自身を呪った。

・・また・・俺は・・流されてしまうのか・・
 今まで,自分は何をやってきたのだろう。
 水城の言いなりになっていたのは,本当に東城を救うためだったのか・・
 いや,そのはずだった。
 しかし,実際はどうだ。
 自分は,墜ちていく東城を救うこともできずに・・
・・墜ちていく?・・
 真中は,ふとそこに引っかかった。
 東城は,レイプされているように見えた。
 しかし,実際は,東城は自ら悦楽によがり・・もう,数度の絶頂に達している。
 早く散るのを厭わない,狂乱の花のようなその様子からは,『墜ちる』という自らの破滅を進ん
で望んでいるようにしか見えない。
・・破滅を望む?・・そうか・・東城・・・そうだったんだ・・
 真中は,不意に理解した。
 唇を噛み締める。
 先ほど,水城が言った『あと一歩足りない』という言葉の意味がのしかかってくる。
 東城は,既に絶望していたのだ。
 望まない相手に抱かれ,感じさせられてしまっている東城綾という自分自身に・・
 それは,今まさに水城によって流されようとしている真中自身が,自分に感じているものとどこ
か似ている。
 真中は思い出した。
 水城と肌を重ねる度に感じていた,自分というものへの嫌悪・・
・・東城は・・ずっと前から,それを味わってきたんだ・・
 東城ならば・・このようなレイプ行為に悦楽を感じてしまった自分を,外見を取り繕って誤魔化
しただけの汚ないものと,そう断じていたとしても不思議ではない。
 男子に軽く声をかけられるだけで,心臓をドキドキとさせて恥ずかしがっていた東城にとって,
それはとても辛いことだっただろう。
 そんな東城を,崖から突き落としたのは・・
 真中は,苦しげに喘ぎ,そこに行き着く。
・・俺だ・・
 鍛冶でもなく,水城でもなく・・
 東城のことを,一番よくわかってあげられるはずだった真中自身。
 激しい後悔が,身を苛む。
『東城は,そんなイヤらしい女なんかじゃない!』
『犯されてイクなんて,東城がそんなことできるわけがないだろっ』
 自分の言葉が,今更のように思い出され,胸が締め付けられた。
・・俺だ・・俺が東城を・・
 東城の,張り裂けそうな胸の内が見える。
 真中の思い,真中からかけられる期待・・
 それに応えられないと悟った東城は・・だから,自ら真中の前で墜ちることを望んだ。
『ごめんね,真中君。もうこれ以上,私のために巻き込まれないでね』
 目の前で墜ちゆく東城から,そんな声が聞こえてくるような気がする。
・・違うんだ・・東城・・東城が悪いんじゃない・・悪いのは,俺なんだ・・
 真中を呆れさせ,遠ざけ,そしてこれ以上,真中を巻き込まないようにして・・東城は,もう戻っ
てこないつもりなのだろう。
 東城を,永遠に失うことになるかもしれない・・
 その予感は,立ち直りようのない喪失感と,底冷えのする恐怖を呼んだ。
 あの,自分を見つめてくれていた笑顔。
 自分のすべてを受け入れ,励まし,力になることを何よりも喜んでくれていた優しい声。
 あの東城を,自分は失ってしまう・・
・・嫌だ・・そんなの嫌だ・・
 真中の中で,熱いものが渦巻く。
 他に何があってもいい。
 ただ,それだけは甘受できない。絶対に。
 ならば・・
 選択肢は,他にはなかった。
・・ならば,一緒に墜ちよう・・
 東城が孤独に立っているその場所に,自分も降りていこう。
 待っているのは,地獄なのかもしれない。
 東城は,もしかしたら怒るのかもしれない。
・・でも・・
 少なくとも,もう,東城を寂しくさせることはない。
 一緒ならば何も怖くない・・
 それだけで十分だと真中は思った。

「さあ・・遠慮しないで。獣の真中君を見せてちょうだい。みんなで楽しみましょう・・」
 しなやかな手に添えられた怒張が,濡れた秘肉に呑み込まれていく。
「あ・・ぅ・・水城先生・・っ」
「うふふふ・・好きよ真中君・・女を味わわせて上げる・・」
 水城の紅い唇が近づき,甘い匂いとともに真中の唇を塞いだ。
 甘く脳が痺れる。
 クラクラと意識が飛ぶ。
 この抗いようのない感覚・・水城に教えられなければ,知らずにいた肉体の快楽。
 しかし,知らなければ,東城の苦悩にも気づけなかった。
 そして,いつか,知らない間に東城との距離は大きく開いていたことだろう。
・・これは,喜ぶべきことなのかもしれない・・
 未熟だった自分は,こうなったおかげで,東城のことをより深く知ることができた。
 ただ,果たしてこれは偶然なのかという疑問が拭えない。
 先ほどから,妙に頭をよぎるものがある・・それは,水城の微笑だった。
・・もしかして・・
 真中はその可能性を考えてみる。
 自分がこの選択に辿り着くまでに,今まで,幾つもの岐路があった。
 岐路に立つ度に苦悩して選択し,今ここに辿り着いたことが・・・実は最初から,水城によって
予定されていたことだったとしたら。
 わからない・・
 どうなのだろう。
 いや,しかし。
 真中は,考えるのを止めた。
 たとえ,そうだとしても,他に選ぶ道はなかったのだ。
 ただ・・
 コトのすべてが,水城の言う通りに,言いなりに進んでいく。
 それは確かだった。
・・最初は,東城の前でこんなこと,絶対にするつもりなどなかったのに・・
 真中は,自分に跨っている水城のヒップを掴んだ。
・・水城先生・・あんたの勝ちだ・・
 悦びに嬌声を上げようとする水城が,首に腕を回してくる。
 その甘さに欲情が一気に膨らみ,背中がゾクゾクとする。
 もう,抑えきれない・・
 真中は,理性をかなぐり捨て,ケダモノとしての欲求に身をまかせた。


 今や,絡み合う体は4つに増えていた。
 鍛冶によって,また次の絶頂に追い上げられていく四つん這いの東城。
 その腕の下に潜り込み,しっかりと東城の背を引き寄せては,その小さな乳首に吸い付く真中。
 真中の腰の上では,水城が騎乗位で腰を振っている。
「ああっ,待って! 真中君っ,してはダメっ! いやああっ! しないでっ!」
「うへへへっ,よかったじゃねぇか,東城。大好きな真中君に,敏感なオッパイを舐めてもらえる
なんて幸せだな。それ,もっと気持ちよくしてもらえよ」
「ダメ,ダメよ真中君! 真中君がこんなこと,しちゃダメぇっ! あああんっ!」
 真中の参入に驚き,必死になって拒絶しようとした東城の抵抗も最初だけだった。
 快楽に翻弄される東城にとって,抵抗の意思を示してはみても,所詮は更に大きな快感に呑み込
まれるものでしかない。
「東城の乳首,とっても可愛いよ・・ほら,気持ちいいって言ってる」
 今まで,水城の相手をさせられてきたからなのだろうか・・真中は,女の体への理解を積み重ね
たことで,東城のどこをどう責めればいいのか,体の反応を探っていくうちに,はっきりと手に取
るように分かっていた。
 東城を恥ずかしくさせ,より強く感じさせるらしい責め言葉も,すんなりと出てくる。
「東城,ココが凄く気持ちいいんだろ? こんなに硬くなって・・本当に可愛いよ・・もっと感じ
させて上げるから,もっと可愛くなるんだ・・」
「あああっ,そんなこと言わないでっ!・・ダメっ・・真中君の舌が・・くぅうんっ!」
 四つん這いの東城が,左右に頭を振る。
 よほどの快感を感じているのだろう。
 小さく尖った乳首の周りで,桜色の乳輪までがぷっくりと膨らんでいる。
「はあぁ・・んんぅ・・っ・・くぅ・・!」
 そこに舌を這わすと,東城は耐えられないように,震える溜息を漏らした。
「まっ,真中君・・そんなっ・・こんなことっ・・真中君に,胸を舐められるなんて・・あぁ・・
凄い・・ん・・こんなことされたら,もう・・私っ・・」
 東城の顔は,はっきりと興奮に赤く上気していた。
 息を弾ませ,快楽に取り憑かれた表情で,腰を前後に大きく振り鍛冶の男根をせがむ。
 ヒップを鍛冶に掴まれて,グチャグチャに犯される秘肉が,悦びの水音をたてた。
「真中に,乳首舐めてもらうのはどうだ? 気持ちよくて堪らないんだろ。東城は,乳首を舐めら
れながら,コイツを入れてもらうのが好きなんだよなあ? うひひひっ,嬉しそうに俺のブッ太い
モノを咥え込んでるぜ? ほれ,真中に言ってやれよ,気持ちいいってよ」
 絶え間ない男根の責めに,ガクンガクンと体を前後に揺らす東城は,そんな鍛冶の言葉を聞いて
いるともつかない表情で,真中を見下ろし見つめる。
「ああんっ・・真中君っ・・私,気持ちいいっ・・こんなにイヤらしいことされているのに,とっ
ても感じちゃうのっ・・んんぅっ! 体がっ・・蕩けそうなのっ」
 透明感のある澄んだ声を,艶やかな色香に染め上げて切なく訴える仕草。
 これほど色っぽい東城を,真中は見たことがない。
「東城・・っ・・」
 水城に包まれた真中の怒張に,快感の痺れが奔る。
 水城もまた,真中の上で悩ましげな声を上げていた。
「あぁ・・いいわっ・・真中君っ,貴方のコレっ・・とってもイイ感じ・・はっ,あっ」
 ヒップを上下にくねらす水城が,温かく真中の男根を包み込んでくる。
 秘肉の中で,うねるような何かに,グチャグチャと絡み付かれているような気さえする。
「う・・ぅ・・水城先生・・」
 凄い快感だった。
「もっと・・もっと突いてっ・・ねぇ,先生が教えて上げたみたいに・・突き上げるの・・ああ!
そうっ・・そうよっ・・ふああっ! この感じっ・・これが,先生好きなのっ」
 真中の腰の動きに合わせて,より深く強く怒張を味わおうと,水城の腰が大きくくねる。
 その目つき,声音,体の動き・・
 それは,東城とはまた違った別次元の魅力だった。
 大人の女とは,これほどまでに男を昂ぶらせるものかと真中は思う。
 目の前で揺れる乳房の美しさは,格別だった。
・・先生・・綺麗だ・・
 あの柔らかく,弾力のある魅惑的な形に触り,揉み回したい・・
 見れば見るほど,そして味わえば味わうほど,心惹かれてしまうのが水城の体だった。
 思わず,手を伸ばしかける。
 そのとき・・
「いや・・ダメ・・」
 真中の手を,柔らかく掴んだもの・・それは,潤んだ瞳をした東城だった。

「東城・・」
 はっとした真中を,東城は快楽に歪む顔で上から見下ろしていた。
「いや・・真中君・・他の女の人を触っちゃイヤ・・私を触ってて・・」
 言うなり,真中の顔に覆い被さって唇を重ねてくる。
 それは,初めて目にする東城の嫉妬だった。
「ごめんね・・好き・・好きなの,真中君・・」
 唇に割り込ませた舌で,真中を求めてくる。
 可憐な舌を懸命に動かし,真中を離すまいとするかのように絡み付かせる。
・・く,くっ・・東城っ・・
 東城の熱い息づかい・・訳の分からない激情が,真中を押し包んだ。
 東城の気持ちは,何となく知っていた。
 知っていながら,正面から向き合うことを避けていた。
 映画を作る上では,何よりも時間が惜しい。
 しかし,その陰で,誰かを切なく哀しくさせていたとしたら。
 いつも,にこにこと微笑むその奥に,ここまでの熱い気持ちが隠れていたなんて。
「大好きなの・・だから・・私を・・私だけを触って・・お願い・・真中君っ・・」
 泣きそうな声で訴える・・飾りのない赤裸々な気持ちは,真中をも熱くする。
 ほんの少し,想像力を働かせれば分かったはずの東城の気持ち。
 無知は罪・・
 映画にかまけて目を背け犠牲にしてきたもの・・そして,大切な女の子を,その心を守るために,
為すべき努力をしてこなかった報いを真中は感じた。
・・東城は,こんなにも俺のことを思ってくれていたのに・・俺は・・
 喜んで側で支え励ましてくれているからといって,その幸せを当たり前に感じ,かけてくれてい
る気持ちに応えることをしなければ,花はやがてしおれてしまう。
 ある意味,自分の甘えがこの事態を引き起こした・・
「東城・・・東城の胸・・とっても綺麗だ・・合宿で,水着姿を見たときなんか・・俺,ドキドキ
で,本当は・・ずっと抱き締めたかったんだ・・」
 手を柔らかく包み,自分の乳房へと誘導する動きに従いながら,真中は包み隠さない気持ちを,
悔恨の情を込めて呟く。
 この何分の一かの気持ちでも,今までに表していたら・・
 東城のことを,気持ちを表すのが苦手な女の子と思ってきた自分が恨めしい。
・・何のことはない・・自分が一番,気持ちを表していなかったじゃないか・・
 スベスベとした膨らみを撫でさすり,両手で揉み上げると,東城はもう絶頂寸前の様相だった。
「あぁ・・触られてる・・っ・・んん・・真中君・・もう・・私,イキそう・・もっと・・もっと
たくさん触って・・私,真中君にたくさん触れられたいっ」
 東城は,切羽詰まった短い喘ぎを連続させ,真中の手をギュッと握る。
 真中には,それが救いを求める手のように思われた。
「いいぜぇ,東城・・その切ない声,痺れるじゃねぇか。好きな男の前で,気持ちよくされてイカ
されるのは最高だろ? ひひひっ,お二人で盛り上がったところ悪いけどよ,ここらで俺も最後に
させてもらうぜ。今日も,たっぷり出してやるからなっ」
 後ろから,割って入ってきた声。
 これが最後とばかりに腰を遣う鍛冶に,東城がガクンと胸と顎を反らす。
 その瞬間,カッとした熱い衝動が,急激に真中の胸の内に膨れ上がった。
・・東城は,渡さないっ・・
 気づいたとき,真中はその腕に東城を引き寄せ,庇うように強く抱き締めていた。

「うおぉっ!?」
 呆気にとられたのは鍛冶だった。
「何しやがるっ!」
 絶頂の快感を外された怒りに,色を失いかける。
 そのとき・・一瞬流れた沈黙を破ったのは,意外にも水城の甘い声だった。
「鍛冶先生っ・・私,もう先生のが欲しくて堪らないわ・・ねぇ,先生,そろそろ私の相手をして
くださらない? 真中君のも,気持ちはいいんだけど,何だかやっぱり物足りなくって・・私・・
やっぱり鍛冶先生,貴方の逞しいモノに貫かれたいの・・ねぇ,先生・・」
「お,おぉっ,み,水城っ・・」
 水城の目は,獲物から視線を決して外さない猫科の動物を思わせた。
 見る者を圧倒する妖艶さで鍛冶に抱きつき,うむを言わさずのしかかっていく。
「鍛冶先生・・先生が悪いのよ。私を何度もイカせて,この体にハマらせたんですもの・・真中君
に放られて,中途半端な生殺しにされている私のこの体・・あおずけにはなさいませんよね?」
 快感を中断された女の,静かな怒りを滲ませているのだろうか。
 水城は,凄味のある目をネットリと鍛冶に向け,美しい裸身を惜しげもなく絡めていく。
「落ち着け,落ち着け,水城っ」
「うふふふっ・・鍛冶先生,可愛い・・」
 およそ水城らしくない,我を失った迫り方に,鍛冶は虚を突かれていた。
 完全に怒りの気分をそがれ,水城をなだめるのに懸命な様子だ。
・・よかった・・
 真中は,ホッと息をつく。
 東城の写真をばらまかれる可能性もある中で,何も考えずに最悪の行動を取ったかと思ったが,
水城の思わぬ行動で救われたようだった。
・・水城先生に,あんな一面があったなんてな・・
 あそこまで欲情した水城を見ようとは,思ってもみないことだった。
 改めて,真中は水城を見つめる。
・・?・・
 そのとき,ふと真中は目をとめた。
 鍛冶に絡む水城の顔に,妙に楽しげな色が浮かんでいる。
 先ほどまでの,凄味のある妖艶な微笑は消え,別のものが表れている。
 少女のような悪戯っぽい笑顔・・
 その意味するところ・・真中は,後になるまで気づかなかった。


 やっと,誰にも二人の邪魔をされないですむ・・
 真中は,腕の中の東城を抱き寄せる。
「ごめんよ・・東城。今まで,辛い思いをさせたね・・」
 東城は,言葉を発することができなかった。
 我が身の限界も考えず,無理矢理に絶頂を続けた体は,荒い息をつきながら全ての力を無くし,
瞳の焦点も定まっていない。
 真中は,そっと頬を寄せた。
 汗で貼り付いた髪をそっと掻き分け,白い頬を優しく撫でる。
「こんなになるまで・・・東城・・」
 愛しさが込み上げてくる。
 真中は,東城の体を包み込むようにして抱いた。
「東城・・あぁ・・」
 柔らかな肌。愛しい体温。
 想い続けた者を,やっと腕にすることができた喜びの吐息が漏れる。
「東城・・好きだ・・一人にして,ごめんな・・愛してる・・もう決して離さない・・」
「真中・・くん・・」
 東城の手が,真中の頭を撫でた。
 優しい声の響き・・うっすらと開いた目が,真中を捉えていた。
「もう・・真中君の馬鹿・・こんなところまで・・来ることなかったのに・・」
 自分を責め・・
 激し過ぎる責めを求め・・
 ようやく,その断罪から解放され,意識を途切れさせかけていた東城が,唇に柔らかな笑みを浮
かべている。
 さっきまで苛烈な凌辱を受けていたとは,とても思えないほど清らかな笑みだった。
「でも・・よかった・・・もう,会えないと思ってたの・・真中君・・ありがとう・・」
「東城・・」
 言葉が出なかった。
 何と言えばよいかわからず,真中は,力の抜けた肢体をひしと抱きしめる。
「でもね・・真中君。私ってずるいんだ・・こんなになっても,まだ・・真中君は来てくれるって
心のどこかで願っていたの・・・愚かだよね。でも・・嬉しいな」
 真中は,目の奥が熱くなるのを感じていた。
 詫びなければならない。
 東城を寂しくさせていた無頓着さ・・
 東城という人間を,一面的な見方で決めつけていた身勝手さ・・
 一番悪いのは自分だったと詫びなければならない。
 だが,口を突いて出てくるのは恨み言だった。
「ひどいじゃないか・・俺,東城と一緒なら・・どんなことだって耐えられるのに・・一人で何処
かに行くなんてこと・・もう許さない・・どこまででも一緒だ」
「真中君・・・うん・・」
 東城は,その一言ですべてが満ち足りたように小さく頷き,真中の目を真っ直ぐに見つめた。
 お互いの体が溶け合って混ざり合い,魂が一つになっていくような気がする。
「真中君・・」
 東城は,安らかな光を湛えて真中をじっと見つめる。
「もう一度・・さっきの・・あの言葉,言ってくれる?」
 真中は,少しだけ破顔した。
 すぐに真剣な顔つきになり,ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「俺は,東城の全てが愛しい。強いところも,弱いところも,光も闇も・・東城が抱えている全て
が愛しい。東城の全てを,俺は肯定することができる・・」
 ゆっくりと語りかける真中の声が,東城の胸に心地よく滲み込んでいく。
 真中は,一つ呼吸を置いた。
「だから,どこまでも一緒だ・・・東城,愛している」
 東城の顔が,嬉しさいっぱいに眩しく輝く。
「私を抱いて・・真中君で,私をいっぱいにして・・すべての記憶を,真中君で塗りつぶして」
 言葉の奥にある,哀しみ,寂しさの記憶。
 それが理解できるから・・真中は黙って頷く。
 東城のたくさんの想いが,静かに流れ込んでくるようだった。

「真中・・くん・・っ」
 東城の腕が,真中の背をかき抱く。
「真中君・・・好き・・好き・・」
 居場所を得られる安心と,思いを遂げられる歓喜に,東城の心は酔っていた。
「は・・あぅっ・・く!・・ん!」
 真中が入ってくる・・
・・あぁ・・温かい・・・
 いたわるような体温が伝わってくる。
 東城は目を瞑り,必死に声を抑えた。
 声を上げて,我を忘れるのは嫌だった。
 今このときだけは,真中のすべてを感じていたい・・
 泣きたいほど幸福なこの歓びを,しっかりと記憶しておきたい・・
「は・・ぅっ・・んん!・・」
 東城は,真中の肩にしがみつく。
 この一瞬,一瞬のすべてを感じ・・胸に刻みつけようとするかのように。

「真中君・・っ・・んっ・・はっ・・あ,ああぁ・・っ・・真中君・・っ・・好き・・」
 真中の先端が最奥に届き,体が満たされる。
 それだけで,東城の心は頂点にあった。
 そして,たった一突き。
「東城・・っ・・」
 真中は,昂ぶる歓喜に堪えきれず絶頂に達した。
 体内で,ビクビクと真中自身が痙攣し,膣奥が擦られる。
「は・・ぅっ・・ん!・・っ」
 その幸せな感触・・東城もまた続いて後を追う。
 密着した腰を中心に,ビクン,ビクンと体を震わせる。
 派手さの欠片もない,静謐な歓喜・・
 だが,二人の歓びは,静かな余韻をいつまでも感じさせる深いものだった。
「ありがとう・・真中君・・・愛してる・・私・・とっても幸せ・・」
 優しい胸に抱かれ・・東城は安らかな眠りに落ちた。


「白けることしやがって・・やってらんねぇ」
 静寂そのものの室内に,苦々しげな声が響く。
 打ちのめされるのは,鍛冶の番だった。
 性戯には,自信があった。
 東城を,イヤというほど狂わせ,堕としたと思っていた。
・・それなのに,あんな若造に・・だいたい,あんなのは反則だろ・・
 二人の愛の世界などという精神的なものに,考えてもなかった決定的な差を見せつけられ,鍛冶
は毒づきたい気分でいっぱいだった。
 つっと,きびすを返す。
 東城のこんな姿を見せられては,もうこれ以上,かかわる気は毛頭なかった。
 決して自分の到達できない別の世界・・愛という,ただの精神的な世界が,あれほどの絶頂を女
に与えるモノだとは・・
 癪に障る。
 東城を抱く気は,すっかり失せていた。
 いや・・どの女を抱いたとしても,今日のことを思い出して敗北感に苛まれるのかもしれない。
・・くそっ・・こんなんじゃ・・俺の征服欲を満たしてくれる女は,もう・・
 ドアノブを握ったところで,鍛冶はふと動きを止める。
「おい,水城先生よ」
「はい」
「まったく,頭のいい女だ・・やってくれたな? 今夜,覚えておけよ。朝まで許さねぇからな」
「あら,何のことでしょう? でも・・それは嬉しいですわね。お待ちしています」
 涼しげな声を背に,ふんと鼻を鳴らして鍛冶は去った。


第6回


 変化は突然だった。
「おい! 鍛冶が結婚するっていう話だぞ! 相手は,何と水城先生だ!」
 衝撃的なニュースは,瞬く間に全校を駆け回り,かなりの数の男子生徒を失望させた。
「くそっ,鍛冶めっ・・水城先生を,どうやってモノにしたんだ」
「何でだよ・・絶対に,あり得ない組み合わせだろ・・あぁ,水城先生・・」
「これから水城先生は,あの鍛冶に・・・畜生っ。鍛冶のヤツ,嬉しくて堪らねぇだろうなあ」
 男子生徒たちは,口惜しさに歯がみする。
 だが,事実は逆だった。
 憮然とした顔の鍛冶に,それとは対照的な,満面の笑みを湛えた水城の幸福そうな様子。
「マジかよ・・嘘だろ・・」
 ひょっとしたら,水城は無理矢理に結婚を迫られて,暗い顔をしているのかもしれない・・そう
思っていた男子生徒たちは,思惑を完全に外され,もう何も言うことができなかった。
 同僚でさえも,そんな二人に目をしばたかせる。
 彼等には,水城ほどの美人を手にして嬉しいはずの鍛冶の表情が,どうしても納得できなかった。
「鍛冶先生も,ひねくれ者よね。もっと素直に喜べばいいのにね」
「それに比べて,水城先生はできた人だよな。旦那を立てて,ちゃんとフォローしている」
「そうそう,ニコニコと愛想もいいし,よく気がつくし,悪いけど鍛冶先生には勿体ないくらいの,
いいお嫁さんだよな。鍛冶先生も,もう少し水城先生の気持ちを考えて,機嫌良く嬉しそうにして
あげればいいのに」
 自然,水城に同情的になる。
 しかし,真中は,ある意味,見た通りそのままだということを知っている。
 鍛冶の,あの憮然とした表情・・真中は,鍛冶の胸の内に思いをはせた。
 鍛冶は,確かに,自分の思い通りにコトを運んだのだろう。
 途中までは。
 女を征服し支配するのが好きで,事実その通りに東城や水城を自由にし・・東城を手放した後も,
水城を被虐と官能の世界に堕とし込んだ。
 しかし,それでいながら,何か妙な違和感を拭いきれないでいたに違いない。
 何かがおかしい・・
 支配しているはずの自分が,逆に支配されているような・・
 そんな違和感。疑念。
・・それも当然だな・・墜ちたのは,水城先生じゃなくて逆。アンタなんだからな・・
 真中は,水城の甘美な体を思い出していた。
 あの,どこまでも蕩けていくような,心地よい熱・・
 あれには,逆らえない。
 支配した悦びを味わいながら,自分の方が夢中になっていることに気づかないのも無理はない。
・・いや・・もう,レールの存在に気づいているのかもな・・
 薄々ながら鍛冶は,自分がいつの間にか後戻りのできない流れの中に,身を置いてしまっている
ことを感じているだろうか。
 それでも,もう遅いのだ。
「ふわぁ・・っ」
 真中の目の向こうで,鍛冶が大きなあくびをする。
 鍛冶の目に浮かんだ,疲れの色が全てを物語っていた。
 きっと,心の底ではぼやいていることだろう。
 どうして,こんなことになったのかと・・


「水城先生・・東城が,鍛冶の嬲りものにされていたとき・・こうなるように,先生が全部仕組ん
でくれたんですか」
 真中は聞いたことがあった。
「まさか」
 水城は一笑に付し,声を立てずに笑う。
「買いかぶりよ。東城さんや,貴方がどうなろうと自分で決めていくことだもの。私には,どうで
もいいことだったわ。本当よ。私も,東城さんが自分で墜ちるのなら止めるつもりもなかったし,
むしろ,もっと苛めてやろうと思っていた口だもの。だいたい,私はね,子供って嫌いなの。相手
のすべてを受け入れてもいないくせに,勝手に裏切られたと言って騒ぐ。もっとも・・・今回は,
意外と面白いことになったけど?」
 身も蓋もないことを,あっさりと言ってのける水城の瞳の奥・・
・・もしかして・・水城先生の過去にも,俺たちと同じようなことが・・
 一度ならず,そういう思いが頭をよぎったが,深読みしすぎなのかもしれない。
 ただ・・表に見えることだけが,真実ではない。
 真中は,それを読み取ろうとした。
 しかし,百手先を読むような瞳の色は,やはり一枚も二枚も役者が違う。
「何をしようとしてるの? 女の心を読むなんて,ふふふっ,そういうことは10年早いわよ」
 水城は,真中の瞳を逆に覗き込み,楽しそうに笑った。
「私は,欲しいものがあれば絶対に手に入れるの。人の力はあてにせず・・長い時間をかけて・・
自分の手で,ね。貴方も覚えておくといいわ」
「だからね,東城さんは,貴方が自分の力で救い出したの。そこは,胸を張っていいわ。自信を持
ちなさい・・貴方,きっといい男になるわ。誰も敵わないくらいの・・世の中,貴方のような男が
もう少しいたらいいのにね。私も,もっと若い頃に逢いたかったわ」
 そういうことよと言って,水城は手を振り去っていった。


 暦は過ぎていく。
 この間,異動した用務員,崎田が女子生徒を暴行し捕まっている。
 芋づる式に,水泳部員数人の名前が挙がり,そこから鍛冶の名前も挙がっていた。
 崎田の話によると,鍛冶を頭にして,各校のめぼしい女子生徒を凌辱する話が出来上がっていた
ということだが,実際,肝心の鍛冶も水泳部員も参加することはなかった。
 一度として。
 共謀していたという,証拠となるモノも何も出てこなかった。
 むしろ・・
「私が? 夫から襲われた? まあ,素敵だわ。そこまで情熱的に,夫から気に入られていたので
したら最高ですわね。でも,残念ながら,立場的には私の方が夫を射止めたというのが正しいので」
 水城は,楽しそうに微笑した。
 そういえば・・と誰もが,結婚を決めたときの二人の様相を頭に描く。
 水城の名前を出したことは,崎田の立場を更に悪くするだけだった。
 それに加え・・
 最近の鍛冶は,体育教師として,徐々に生徒の人気を集めつつある。
 身なりも変わり,体育技能を指導する力や理論に磨きがかかると,鍛冶はもうまるで別人だった。
 結局,女子生徒たちから出てくる名前は,崎田だけだったこともあり,異動した先での,崎田の
単独犯行ということで落着した。

・・凄いもんだな・・
 改めて,真中は,水城の先を見通した力を思わずにはいられない。
 水城は,あそこまで読んでいたのだろうか。
 いや,今回の事態もそうだが,鍛冶の隠れ燻っていた能力まで見抜いていたというのだろうか。
 もし,そうだとすれば・・
 いや,きっとそうなんだろう。
・・つくづく,用意周到な人だ・・いったい,どこまで見えているんだか・・
 真中は,呆れたように首を振る。
・・しかし・・・それよりも・・
 真中には,悩むことがあった。
 あの日から,目に焼き付いて離れない・・東城の,白く揺れる腰。
 それが,真中を悩ませるすべての元凶だった。
 思い出す度に,股間は熱く脈を打ち始める。
 だから・・
 鍛冶や水城の,東城にやった行為は許すことはできないが,それを徹底的に責め切るだけの資格
も持てないことが悩ましかった。
 感情的に言えば,鍛冶を見れば血が沸き立つ。
 非難したくなる。
・・しかし,俺だって・・同じじゃないか・・
 あのとき感じた興奮・・真中はうなだれた。
 自分の中にある,闇の部分・・
 これから,自分はこの闇と戦わなければならない・・

 加えて・・
 あの一件の及ぼした影響を考えるにつけ,すべてを否定できないのも悩ましかった。
 もし,あの件がなかったとしたら・・
 自分は,東城をいつまでも清らかなものとして扱っていただろう。
 そうなれば,いつか東城と自分との間には,埋めることのできない深い溝ができていったのでは
ないだろうか。
 何も気づかないまま・・
 もし,自分が,水城によって引き込まれていなかったら・・
 自分は,あの東城の姿を,決して受け入れることはできなかっただろう。
 自分自身の闇を棚に上げて・・


第7回


 東城は,小説家の卵として,その名を近隣にまで知られるようになっていた。
 真中は,今日,朝一番に東城に声をかけるつもりだった。
『おい,東城,やったな。これ見てみろよ。文句なしの大賞受賞だと書いてあるぞ』
 こんな感じで言おうか。
 東城は,恥ずかしがりやだから,周りに人がいる前では,きっと頬を可愛く染めるんだろうな。
『うふふっ,ありがとう・・』
 それでも嬉しそうに,そっと手を握ってくる東城の笑顔。
 真中には,目に見えるようだった。

 とても清らかで・・・
 爽やかなほどに,美しく純粋な女の子で・・
 最近の真中には,やはり東城は,そういう女の子なんだという思いがある。
 なぜだろうか。
 あんなことがあったのに,東城の清らかさ,笑顔の眩しさは少しも損なわれていない。
 いや・・それどころか,更に磨かれた清らかさは深みを増し,いっそう眩しく輝いて見える。

「よし!」
 真中は,気持ちよさそうに空を見上げた。
 空気は冷たいが,それだけに澄み切った青空の美しさ。
 太陽の眩しさが,青空の美しさを際立たせているような気がする。
 真中は,胸の奥から溢れ出る歓びに,片手に受賞者発表の雑誌を握ったまま駆けだした。

『圧倒的な筆力。これは,単なる恋愛小説にとどまらない。
 大切な人と出会い,共に歩んでいく喜び。
 その過程で何かを失おうと,それも喜びであり感謝であるとする著者の言葉が胸を打つ。
 何かを失っても,それでもなお,決して忘れてはいけないものは何なのか。
 狂おしく相手を求める,切々とした心。矛盾。葛藤。
 著者は,まだうら若い女性であるが,この年齢で,ここまで人間の内面をえぐり,緻密に描く
ことができる感性に驚きを禁じ得ない。
 このような,成熟した作品が,この世に新たに現れたことを嬉しく思う。
 新鋭作家の登場に,敬意と喝采と期待とを惜しみなく贈りたい』

 数年後,東城の小説は,次々と映画化され,広く日本中から注目を集めることとなる。
 そのメガホンを執り,東城を傍らにする監督は,後に夫となる真中その人であった。


 季節は,秋も終わりに近い。
「真中君,あのね・・実は,話したいことがあるんだけど。ううん,大したことじゃないんだけ
どね」
 既に,長い人の列ができたバス停の前。
 恥ずかしさの代わりに,嬉しさに頬を紅潮させた東城が,眩しそうに真中を見上げる。
・・東城,少し変わったかな・・・
 先ほどの自分の計算とは少し違うが,それは嬉しい誤算でもある。
 綺麗な東城・・
 真中は,しばし,幸福な気分で東城に見とれた。
 容姿だけのことではない。
 最近の東城は,言葉,行動,考え方,そういったものが,内面から滲み出てくる美しさに彩ら
れている。
 それが,堪らなく嬉しかった。
「ん? どうしたの?」
「い,いや。何でもないよ」
 首をかしげた微笑みは,花のような匂いを胸の奥に運んでくれる。
 幸福の足音が聞こえるとしたら,こんな感じだろうか・・
 真中は,そっと,手にしていた雑誌を背中に回した。

 季節は,結実の秋。
 東城の秋は,今まさに始まった。




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